神殺しのクロノスタシス3

「ったく、ミトンもつけずにトレイを触る奴があるか」

「だって、早く食べたかったんだもん」

「それで火傷したんじゃ、洒落にならないだろ」

「そんなの、大袈裟だよ。私魔導師だよ?こんな火傷、すぐに…」

「馬鹿」

そういう問題じゃないんだよ。

「治るからって、怪我して良い訳があるか。しかも火傷なんて。最悪、痕が残るんだぞ」

今回は、それほど酷くないから、綺麗に治るだろうが。

下手したら、一生モノの傷痕になるところだった。

女が、身体に残る傷を作るもんじゃねぇ。

「もっと気をつけろ。牛乳パックぶちまけるのも、洗剤ぶちまけるのも良いが、怪我はすんな」

「…ジュリス、怒ってる?」

「あぁ。怒ってるよ」

怪我したことに、じゃない。

怪我したことを、大したことないって言ってることに怒ってる。

「…ごめんなさい」

「…」

「私、いつも失敗して、ジュリスを怒らせるの。ごめんね」

「…いや」

充分回復魔法をかけて、俺は杖を収めた。

「言い過ぎた。別に、そんな怒ってねぇよ」

「でも、ちょっとは怒ってたでしょ?」

「まぁ…ちょっとだけな。でも、今謝ったから、もう怒ってねぇ」

ちゃんと反省してるなら、それで良い。

「痛くねぇか?」

「んー…。少しヒリヒリする」

「そうか、ちょっと待ってろ」

俺は、ジャケットの内ポケットに忍ばせていた、簡易救急セットを取り出した。

「ちょっと痛いかもしれないが、我慢してくれ」

「うん」

回復魔法はかけたから、大丈夫だと思うが。

小さい水ぶくれくらいには、なるかもしれないな。

俺はベリクリーデの指先に、軟膏を塗り付け。

専用の医療用テープを、患部に巻いた。

「痛むか?」

「ううん」

「しばらく巻いとけよ、それ。朝になってもまだ痛かったら言え」

「…」

「?どうした?」

やっぱり、まだ痛むのか?

「ジュリス、そんなの持ち歩いてるんだ。準備良いね」

「これぞ、備えあれば憂いなしだ。良い例だろ?」

「本当だ。ジュリス凄い」

実は、昔からいつも持ってる訳じゃない。

こういうものを持ち歩くようになったのは、ベリクリーデと行動を共にするようになってからだ。

何せ、普通に道を歩いてるだけで、うっかり溝に足を突っ込むほどの、おっちょこちょいぶりだからな。

対策は万全。

あとは、お前が気をつけてくれれば完璧なんだけどな。

「…」

じー、とテーピングされた指先を見つめるベリクリーデ。

「…何だよ?」

「ありがと、ジュリス」

「…あぁ、うん。ありがとは良いから、もう怪我しないでくれ」

こんな備え、しておいて良かったと思わない方がずっと良いんだから。