神殺しのクロノスタシス3

…小一時間ほどたった後。

様々な犠牲(主に俺)を払って。

ようやく、チョコマフィンの焼き上がりを告げる音が、チンと鳴った。

「あ、ジュリス出来たよ」

「出来たな」

いやぁ、大変だったなぁ。

特に、床一面に広がった食器用洗剤を、綺麗に拭き取るの。

あれが一番大変だったよ。

どれくらい大変だったか、って?

やってみろよ。食器用洗剤、丸々一本床にぶちまけたら、どうなるか。

人によっては発狂モノだから。

それはともかく。

ようやく、マフィンが焼き上がった。

「やったー」

「え、ちょ、まっ…」

ベリクリーデは、ケーキを待ち切れない子供のように立ち上がって、オーブンを開け。

長時間、高温でじっくりと焼いて、熱くなったトレイを、素手で掴んだ。

「熱っ!!」

「馬鹿!」

床掃除が大変過ぎて、忘れていた。

こいつは何でもかんでも、行動が豪快過ぎるんだった。

熱くなったトレイを、ミトンもつけずに素手で触るとは。

釘を差しておくべきだった。そのまま触るなよって。

充分予測出来たことのはずなのに。

とにかく、起きてしまったことはどうしようもない。

「こっち来い」

俺は、火傷にびっくりしているベリクリーデを、ぐいっとシンクに引き寄せ。

急いで水道の蛇口を捻り、火傷した左手に、冷水を浴びせた。

「触ったのは左手だけか?」

「う、うん」

「そのままじっとして動くなよ。ちゃんと冷やさねぇと…」

両手で掴まなかっただけ、マシだが。

熱々のトレイを触ったせいで、ベリクリーデの左手の指先が、赤くなっていた。

幸い、それほど酷い火傷という訳ではなさそうだが。

でも、軽い火傷って訳でもない。

俺は、杖を取り出した。

「ジュリス?」

「良いから、そのまま動かすな。水で冷やしとけ」

ベリクリーデの、赤くなった指先に。

俺は、回復魔法をかけた。

「…!」

「痛いか?」

「ううん…。ジュリス、回復魔法も使えるんだね」

あ?

「あぁ…まぁ、長く生きてりゃ、大抵の魔法は使えるようになるよ」

ってか、今はそんなことどうでも良いだろ。