神殺しのクロノスタシス3

さて、あとやるべきことは残り僅か。

「生地を型に入れて、焼くだけだ」

「うん任せ、」

「はいはい杖出さなくて良いからな。焼くのはオーブンがやってくれるから、お前はこのカップに、生地を入れてくれ」

「分かったー」

ベリクリーデにスプーンを渡してやると。

彼女は、生地を掬って、カップケーキの型に入れ始めた。

「ちょっとねちょねちょするねー。面白い」

「そうか、良かったな」

「これ、本当に焼いたらマフィアになるの?」 

「マフィンな」

抗争始めようとするな。

「焼いたら、マフィンになるの?」

「なるよ」

「でも、ベタベタだよ?」

「まだ生地の状態だからな。焼いたら、ちゃんとふっくらするよ」

何せ、万能なホットケーキミックスが入ってるからな。

心配しなくても、ちゃんと膨らむ。

「そうなんだ。凄いね〜ジュリス」

「俺かよ。俺が発明した訳じゃねぇよ」

「凄い凄い。ジュリスは色んなこと知ってて凄いな〜」

「はいはい…」

お前が楽しそうで何より。

スプーン片手に、あちこち生地で手を汚しながら、型にマフィンの生地を入れる様を見ていると。

本当に、でっかい幼稚園児みたいで、それなりに愛嬌があるんだけどな。

こいつの中に、恐ろしい神がいるなんて、とても信じられないくらい。

邪神の方が怖いだろう、って?

俺に言わせりゃ、お互いを憎み合って、人間まで巻き込んで殺し合おうとする神なんて。

どちらも、傍迷惑な存在でしかない。

罰当たりだろうと何だろうと。

世界は神の為ではなく、世界に生きる人間の為にあるのだ。

だから、ベリクリーデ。

お前は存分に、人間として楽しみ、人間として生きろ。

お前には、その権利がある。

「…?ジュリス、どうかした?」

「うん?何でもねぇよ」

「ジュリスもやる?」

「いや、お前がやって良いよ」

「やったー」

本当、無邪気と言うか何と言うか。

俺が、本気でベリクリーデを怒れない理由が、分かるだろう?