神殺しのクロノスタシス3

気を取り直して。

製菓用チョコレートの封を開ける。

まな板と包丁を用意して…っと。

「良いか、ベリクリーデ。まずはこのチョコレートを細かく刻んで…」

「もぐもぐ。本当だ。これチョコレートだ。美味しいもぐもぐ」

おい。

ちょっと目を離した隙に、製菓用チョコを摘み食い。

「こら!摘み食いやめろ」

幼稚園児か。

「ごくん。ふぅ。もうこれだけで充分美味しいね。わざわざトリュフにしなくても良いんじゃないかな」

企画倒れ。

人のやる気を削ぐようなことを言うな。ルイーシュじゃないんだから。

「良いから、言うことを聞け。まずチョコを刻むんだ」

「何で?もう美味しいのに、わざわざ刻むなんて…」

「刻んだ方が溶けやすいからだよ!良いから言うことを聞け」

「分かった。じゃあ魔法で粉々に、」

「やめろ」

俺は、杖を取り出そうとするベリクリーデを止めた。

何でも魔法で解決しようとするのは、お前の悪い癖だ。

熱を通すのも凍らすのも、全部魔法でやったって言ってたよな。

俺達魔導師は、どうしても「そんなの魔法でやった方が早い」と思って、魔法を使って解決してしまいがちだが。

本来料理というものは、非魔導師の為のもの。

身体の栄養分を、魔力で補えない者達が行う行為。

故に、魔法なんて使わなくても、料理は出来る。

だからガスコンロや冷蔵庫や包丁、その他様々な調理器具が、この世に生まれたのだ。

そして、そんな文明の利器が、今俺達の前にはある。

それらを無視して、魔法に頼るとは何たることか。

調理器具に対する、酷い侮辱も甚だしい。

たまに、ちょっと使うくらいなら構わないが。

俺の目が黒いうちは、料理でそんな乱暴な魔法な使わせないぞ。

ましてや、こいつの魔法は、大味で大雑把だからな。

チョコを刻めと言ったら、粉微塵に粉砕しかねない。

調理台を、刻みチョコまみれにされちゃ、堪らないからな。

ここは、ちゃんと自分の手でやってもらうぞ。

「魔法を使うのは禁止だ。包丁でやれ」

「え」

「ほれ、包丁持って。手を切るなよ」

「…うー…」

不満そうな顔をするな。

非魔導師の人々は、毎日やってることなんだぞ。

「良いけど私、ぶきっちょだよ?あんまり細かく出来ないよ?」

「なら、ちょっとくらい大きくても良いよ。どうせ溶かすんだし」

大事なのは、魔法を使わず、丁寧に人の手で調理することだ。

すると。

ベリクリーデは、渋々包丁を使い始めたが。

本人が申告するように、やはり不器用なようで。

一片3センチ幅くらいに刻んでいた。

あれはもう、刻むと言うか、普通にざく切りだな。

細かく刻むどころじゃねぇ。

よっぽど、横から口を出したかったが。

嫁の料理に口を出す、うるさい姑みたいにはなりたくないので。

ツッコみたいのを、必死に我慢した。

どうせ溶かすんだから。溶かすんだから良し、と。

自分に言い聞かせながら。