神殺しのクロノスタシス3

…とりあえず。

俺は、調理室の窓を全開にして、焦げ臭い匂いを外に出し、換気。

心配そうな顔をして集まっていた魔導師達を、もう大丈夫だから、と持ち場所に返し。

俺は、ベリクリーデ(と、彼女が持つ謎の物体)に対峙した。
 
「…ベリクリーデ」

「はい、ハッピーメリーバレンタインイヤー」

だから、色んなもん混じり過ぎだろ。

誕生日とクリスマスとバレンタインと新年がごった煮になってる。

何処から聞きかじってきたのか。

「お前は何がしたいんだ?」

「ジュリスに、バレンタインのチョコレートあげようと思って」

「…」
 
「…?嬉しくて感動した?」

ちげーよ。

最早ツッコミどころが多過ぎて、何からツッコめば良いのか分からないだけだ。

まず、第一に。

「ベリクリーデ。何処から聞きかじってきたのか知らないがな」

「?」

「バレンタインは2月のイベントだ。そして今は9月だ」

「!」

何だ、そのびっくりした顔は。

「そして、お前が作ったこれ」

俺は、ベリクリーデが持っている皿の中身。

溶けたろうそくの蝋で、でろでろになった消し炭を指差した。

「これは、断じてチョコレートではない」

「?何で?ちゃんとレシピ通り作ったよ」

何のレシピを見たんだ?

消し炭の作り方か?

よし、分かった。

「材料に何入れた?」

「えーと、確か…カカオ豆」

「市販のチョコレートじゃなくて、カカオ豆を使ったのか?」

「うん」

…マジで?

「よく手に入ったな…」

国内では、なかなかお目にかかれない。

何処かの業者が輸入したものを、分けてもらったのか?

そうでもしなきゃ、本物のカカオ豆なんて、そう簡単に手に入るものじゃ、

「うん。でもスーパーで、カカオ豆くださいって言ったら、うちには置いてないって言われたから」

「…」

「代わりにコーヒー豆を入れて、チョコレート作ったの」

…錬金術師、現る。

コーヒー豆で、チョコレートを錬成するとは。

世界って広いんだなぁ。

俺も随分長生きしてるが、まさかコーヒー豆からチョコレートを作る人間に遭遇するとは。

人生って分からないもんだな、うん。

俺には、まずこいつが何を考えてるのかが分からないよ。

切実に、誰か教えてくれ。

ベリクリーデの思考回路がどうなってるのか。

「…で、そのコーヒー豆をどうした?」

「なんかね、袋を見たら、豆をお好きなように火に炙る…?みたいなこと書いてあったから」

多分、焙煎のことを言ってるんだろうな。

「炎魔法でじっくり燃やして、炙った」

その時点で消し炭になったんだろうな。

「そしたら、良い感じに真っ黒になったから」

やっぱり消し炭にしたんだな。

「それをすり潰して、砂糖と牛乳入れた」

「そうか」

ところで、お前の後ろの調理台に。

封の開いた、「塩」の袋が置いてあるんだが。

お前が入れたのは、本当に砂糖だったのか?

「ココアパウダーと生クリームも入れたの」

「うん」

「でも、ココアパウダーっていうのがよく分かんなかったから」

何で?

「粉のコーヒー入れた」

インスタントコーヒーのことだな?

お前はコーヒー豆の上に、更にインスタントコーヒーを振りかけた訳だな?

「それと、生クリーム…って言うのを入れようと思ったんだけど、やめたの」

何で?

「ジュリス前に、夏場に生モノ食べるのは危ないから気をつけろ、って言ってたでしょ?」

まぁ、そうだな。

夏場の生モノは気をつけろよ。うっかり常温放置したら、すーぐ傷むからな。

で?

「火を入れたら良いんだろうと思って、生クリームも燃やした」

成程。

馬鹿の発想だな。

「ちなみに、生クリームは、ちゃんとパックから出して温めたんだろうな?」

生クリームって、瓶に入ってるものもあるが。

スーパーで売ってるのは、大抵、小さい牛乳パックみたいな容器に入って売られてるよな?

使うときは、当然そのパックから取り出して使う。

しかし、ベリクリーデは。

「?」

このきょとん顔。

成程よく分かった。パックごと燃やしたんだな、よーく分かった。

お前が、とんでもない馬鹿だってことが。