神殺しのクロノスタシス3

…もう既に、ツッコミどころが色々あるが。

とりあえず、誰かに連れ去られた訳ではないと分かって。

そこは、安心したのだけど。

…それは置いといて。

あいつ、何やってんの?

それから。

…俺の心配を返せ。

「…おいコラ!ベリクリーデ!」

窓から奴の名前を呼ぶと、

「!」

ベリクリーデは、いきなり呼ばれて驚いたのか。

びくっ、としてこちらを振り返り。

その弾みで、彼女がしがみついていた枝が、ピキピキ、と危うい音を立てた。

やばっ…。

「おい!すぐそこから降り…」

警告しようとしたが、時は既に遅かった。

ベリクリーデがしがみついていた枝は、その重さに耐えられず。

そして。

バキッ、と音を立てて、折れた。

当然、その枝にしがみついていたベリクリーデも一緒に、地面に落下。

「あれー」

落っこちてる途中で、ベリクリーデの一言。

あれーじゃねぇよ馬鹿!

「くそっ!」

俺は、咄嗟に窓から飛び降りた。

だが、この高さ、この距離では、俺より先に、ベリクリーデの方が地面に叩きつけられる。

ならば。

俺は窓枠を蹴る瞬間、力魔法で足をバネのように加速させ、ベリクリーデの落下速度より早く、地面に着地し。

ひゅーん、と落っこちてきたベリクリーデを、すんでのところでスライディングキャッチした。

力魔法で加速をかけたとき、反動で窓枠が歪んだかもしれないが。

やむを得ない。

とにかく、ベリクリーデの落下は阻止した。

危ないところだった。

「大丈夫か!?」

「…」

ベリクリーデは、驚いた表情のまま無言だった。

上手くキャッチしたつもりだったが。

まさか、何処か怪我をし…、

すると。

「…」

何を思ったか、ベリクリーデは。

自分がしがみついていた枝の先に、ひょいっと手を伸ばし。

そこに実っていたどんぐりを一つ、もぎ取り。

こちらに、渡してきた。

「はい」

「…」

…俺はたった今、木から落っこちたベリクリーデを、すんでのところで助けた訳だが。

その見返りとばかりに、どんぐりを渡されてしまった。

どう反応すれば良いんだ?

「…何これ」

「どんぐり」

それは見たら分かる。

「そうじゃなくて、何でどんぐりなんだ」

「美味しいかなと思って」

既についていけない。

「分かった。順を追って説明してもらおう。朝起きて、お前はまず一番に何をした?」

「カーテン開けて、窓の外を見た」

そうか。

そこまでは正解だな。

朝、太陽の光を浴びるのは良いことだぞ。

「そしたら、下の木に、どんぐりがなってるのが見えて」

そうか。

そろそろそんな季節だもんな。

「で、取ろうと思ったの」

何で?

よく見たらベリクリーデ、パジャマのままだし。

どんぐりに興味を持つのは、百歩譲って良いとして。

まずは着替えろよ。

「窓開けて、木に飛び移ったまでは良かったんだけど…」

良くねぇよ。

まず着替えろ。それから木に飛び移るな。

「どんぐりになかなか手が届かなくて、どうしようかなって思ってたら」

「…俺に名前を呼ばれて、びっくりして落っこちた訳だな?」

「そうなの。よく分かったねジュリス」

分かりたくなかったよ畜生。

つまり、俺の心配や不安は、全くの無意味で。

こいつはただ、窓を開けて「あ、どんぐりだ!」と衝動的に木に飛び移り。

どんぐり収穫しようとして、落下した訳だな。

朝っぱらから、スライディングキャッチで背中を泥で汚し。

何ならちょっと腕を擦りむいてまで、ベリクリーデを助けた俺の犠牲は、何だったんだ?