神殺しのクロノスタシス3

こうして。

シルナの財布で、たらふく豪遊した俺達だったが。

帰り道。

「いやぁ他人の財布で食事するって最高ですね、イレースさん」

「えぇ全く。日頃のストレスが発散されて、最高の気分です」

容赦のない大人達は、この会話。

天音だけは、

「が、学院長。元気出してください…。あの、美味しかったですよ。ありがとうございました」

撃沈しているシルナを、必死で励まそうとしていた。

天音が良い奴で良かったな。

更に。

「あれって、本当に牛だったのかな」

「さぁ?解体するところ見た訳じゃないからなー。意外とキリンとかだったりして」

シャトーブリアン食っときながら、自分の食べたものを疑う子供二人。
 
有り難みの欠片もない。

キリンではないだろ。

「羽久ぇ…」

半泣きで、俺に縋ってくるシルナである。

一応俺も、シルナの財布で豪遊した一人なんだけどな。
 
何と慰めて良いやら。

「…シルナ」

「うぅ…」

「…まぁ、良かったじゃないか」

ポーカーに負けた罰ゲーム、と思うから切なくもなるのだ。

「何が…?」

「シルナのお陰で、皆楽しい時間が過ごせたんだ。そうだろ?」

「…!」

暗く沈みきっていたシルナの顔に、光が戻った。

よし。

「イレースのストレス発散にもなったし、ナジュは…まぁいつものことだが」

「ちょっと。僕はいつものことってどういう意味ですか」

うるせぇ。

「天音も俺も、美味しいもの食べさせてもらって嬉しかったし。な、天音」

「う、うん!はい!凄く美味しかったです。ありがとうございました学院長」

合わせてくれる天音。やっぱり優しい。

「元暗殺者組は…」

振り向くと、罰当たりな二人は。

まだあの肉が本当に牛だったのか、それとも別の何かの肉だったのではないか、と議論しているが。

…あれは無視しておくとして。

「発育遅れ気味な二人に、良い栄養取らせてやったと思えば。な?無駄なことなんてなかったじゃないか。皆シルナのお陰で、良い思い出が作れたよ」

ただでさえこの夏休み、後半は特に、良い思い出なかったからな。

最後くらいは、良い思い出で締めたい。

よく言うだろ?

終わり良ければ、って。

そういうことだよ。

「そっか。私の財布は犠牲になったけど…。でも皆、楽しい思い出が作れたんだね」

「そうだよ。シルナのお陰だ」

「うん…!そっか、そっか。良かった…」

ようやく、満足げな笑みを浮かべるシルナ。

機嫌が直ったようだ。

「…さすが、学院長の操縦は世界一ですね」

嬉しそうなシルナをよそに、こそっと声をかけてくるナジュ。

「まぁな」

伊達に、こいつの相棒長年やってる訳じゃないからな。

こういうときどう慰めれば良いかは、大体熟知している。

とはいえ、口から出任せではないぞ?

シルナのお陰で、皆楽しい時間が過ごせたのは、紛れもない事実だ。

俺は、それを教えてやっただけのことだ。