神殺しのクロノスタシス3

――――――…ナジュせんせーとの、再三に渡る負け戦で、気づいたことがある。

俺達はずっと、ナジュせんせーのフィールドで戦ってた。

と言うか、あの意地悪なナジュせんせーに、そうなるよう仕向けられていた。

具体的に言うと、読心魔法で攻撃全部読まれてるという、チート的なフィールドで戦わされてた、って訳だ。

それは仕方ない。そういう訓練だから。

つまり俺達は、その鉄壁の「ナジュせんせー読心魔法フィールド」の中で戦わなければならない。

しかし、何度も何度も、この稽古場の床に這いつくばらされ、ナジュせんせーに嘲笑われて。

俺は当然苛ついてたし、あの『八千代』でさえ、そろそろムカついてきた頃。

俺達は、気づいたのだ。

何で俺達は、「ナジュせんせー読心魔法フィールド」の中で戦わなければならないのか。

確かに、そうなるよう仕向けられてはいたけれど。

別に、律儀に従ってやる必要はない。

ナジュせんせーが、ナジュせんせーフィールドを作るなら。

俺達は、そのフィールドの外に出ても良いのでは?

それどころか。

ナジュせんせーフィールドに代わる、「『八千代』&『八千歳』フィールド」を作り出して。

むしろ、相手をその中で戦わせたら。
 
それって、俺達にとって、凄く有利なんじゃないかって。

二人で話し合い、まずは何とかナジュせんせーを、この新しい戦法の餌食にし。

確実にそれが物になったら、今度こそ打倒学院長。

そう話し合って、その為の訓練を始めて、僅か一週間ほど。

ナジュせんせーに試す前に、まずは。

互いの古巣にいた元同胞達に、試させてもらおう。

この戦法が通用するか試す、良い機会だ。

だから。

「『八千代』!」

『八千代』を呼ぶと、彼は一瞬だけこちらを向いた。

俺は指文字を作って、『八千代』に見せた。

一瞥しただけだが、これで充分伝わってるはずだ。

『八千代』が指文字を確認した後。

俺は、第一稽古場の天井近くまで浮上し。

同時に両手から、可能な限りの大量の糸を放出した。

目眩ましと、『八千代』の足場作りを兼ねている。

おいおい、こんなことしたら『八千代』がまた、足を滑らせてすっ転ぶんじゃないか、と思っただろう?

大丈夫だ。

この問題については、『八千代』が俺の糸を判別出来るようになるまでの、対応策として。

糸に、色を付けることにした。

しかし、全ての糸に同じ色をつけたら、『八千代』どころか、敵にもバレバレなので。

カラフルに、レインボーカラーで、あらゆる糸にあらゆる色をつけた。

そして、事前にどの糸を、どの順番に踏めば良いか、符牒を決めておいた。

「赤→青→黄→紫→黒…」みたいに。

だが、毎回同じパターンだったら、長期戦になったとき、敵に気づかれる恐れがある。

だから、別の配色パターンも決めておいた。

そのときどのパターンで動くかは、先程の指文字で決める。

俺の糸の区別は、なかなかつかない癖に。

こういう暗号や符牒、フォーメーションについては、一回伝えただけで、あっさり覚えるからなー。『八千代』って。

むしろ、俺の方が覚えるのにちょっと苦労したよ。

さて、それはともかく。

『八千代』は、俺の糸の間を縦横無尽に駆け抜け。

俺を狙おうとしていた、女暗殺者の相手をしていた。

同時に、もう一人の槍使いの相手も。

だが、さすがの『八千代』でも、『終日組』の暗殺者二人の猛攻を、一人では受け切れまい。

故に、俺は両手で糸を放出しながら、黒いワイヤーを自在に操り、『八千代』の背中を守った。

『八千代』は、一切背後からの攻撃を気にしている様子はない。

全部、俺が防いでくれると信じている証だ。

…まーったく。

どーして、俺みたいな奴を、そんな簡単に信じられるかなぁ。

本当に、どうかしてるよ。

「…そんな奴を、同じように信じてる俺も、どうかしてるけどね」

さぁ、準備は整った。

そろそろ、終わりにしようか。