神殺しのクロノスタシス3

窓ガラスから入って、正解だった。

いや、失敗だったのか?

何せ。

稽古場の床には、びっしりと撒菱(まきびし)が散らばっていたからである。

勿論、一つでも踏み抜けば、撒菱に塗られた毒で動けなくなる。

しかし。

窓ガラスから入ったのは、やはり正解だ。

何故なら、僕は今。

一人ではないからだ。

「『八千代』!」

僕は、『八千歳』が瞬時に張ってくれた糸を足場にして、空中に立った。

仲間、味方、共闘なんて、面倒なことだと思っていた。

でも、僕は気づいた。

一人より、二人でいる方が。

ずっと、出来ることは多くなるんだって。

そして。

「…」

撒菱フィールドと化した第一稽古場で、僕達を待っていた黒装束の暗殺者。

彼らもまた、二人だった。

向こうも共闘するつもり?

違う。

僕と『八千歳』、一人ずつ始末する為に二人いるだけだ。

間違いなく、あの二人が共に戦うことはない。

『アメノミコト』にいた僕達だからこそ、分かる。

だからこれは、2対2の戦いじゃない。

2対1対1の戦いなのだ。

ならば、何も恐れることはない。

そして、予想通り。

片方の、見るからに接近戦向きのハンドクロー使いの女暗殺者は、『八千歳』に向かって飛び。

もう片方の、槍使いの男暗殺者は、僕に向かって飛んできた。

二人共、床一面に散らばった撒菱を踏んでも貫通しないよう、特殊な素材で編んだわらじを履いていた。

成程。

僕達は、床を踏んだら終わりだな。

当然ながら、『八千歳』もそれに気づいている。

『八千歳』は、いくらでも糸で足場を作れるが。

僕は、何処かに足を着けて助走をつけないと、飛べない。

故に。

「『八千代』、頼むよ」

「分かってる」

僕は、槍使いの男の攻撃に、背中を向けた。

代わりに、『八千歳』の糸を足場にして蹴り、小太刀を抜いた。

そして、僕はハンドクロー使いの女に向かって飛んだ。

女暗殺者の驚愕の顔が、目の前に飛び込んできたそのとき。 

僕の背中のすぐ後ろで、ガキンッ!!と金属がぶつかるような音が聞こえた。

何の音なのか、確認しなくても分かる。

僕の背中に当たるはずだった、男暗殺者の槍が。

『八千歳』の、二本の黒いワイヤーによって防がれる音だった。