神殺しのクロノスタシス3

僕は、戦いは好きじゃない。

でもそれは、昔からそうだった訳じゃない。

人を切る、人を殺す為の剣術を極めることは。

俺にとって、楽しいことではなかった。

どれだけ周囲に持て囃されようとも。

人を殺す戦力として数えられるのは、不快だった。

剣の天才?

最強の剣士?

そんな称号をもらっても、ちっとも嬉しくない。

むしろ、剣を振るうことしか能のない自分に、嫌気が差した。

だから俺は、剣を捨てた。

人を切ることじゃなくて、癒やすこと、治すことで人を守ろうと思った。

そうして僕は、杖を手にした。

以来、回復魔法と、手習い程度の光魔法だけを極めることに専念し。

剣を手にすることはなくなった。

もう二度と、剣を持つことはないと思っていた。

そのつもりもなかった。

ただ、剣の代わりに極めた回復魔法だけを使って。

放浪の旅を続け、傷ついた人、病んだ人々を助けられれば、それで良かった。

でも。

ルーチェス・ナジュ・アンブローシアと、『カタストロフィ』。

そしてシルナ・エインリー学院長達との出会いによって、僕は変わった。

更に、『アメノミコト』の…令月さんやすぐりさん達を見て、思った。

守るだけでは。

癒やすだけでは。

優しさだけでは、人を救うことは出来ないのだと。

世界は、そんなに甘くないのだと。

だから、僕は。俺は。

こうして再び、剣を取った。

命を、仲間を守る為に。

回復魔法しか使えない、なんて言わせない。

守られているだけではいられない。

ナジュさんだけじゃなくて、きっと学院長も。

内心俺が「こちら側」の面も隠し持っていることを、気づいていたんだろう。

気づいていたからこそ、俺をイーニシュフェルト魔導学院に呼んだのだろう。

いざというとき、自分を、仲間を守れる強さがあることを、知っていたから。

だから俺は、その期待に応える。

それでも、戦いが好きでないのは事実だ。

人を切る感触は、心地よいものではない。

出来るだけ、戦いには関わりたくない。

だが、今回は別だ。

これまでの戦いでは、俺の出番はなかった。俺より優れた魔導師達が戦い、僕がそれを治し、癒やすことの方が大事だった。  

それに、血生臭い自分の裏側を、仲間達に見せたくはなかった。

皆の前では、とても見せられない。見せたくなかった。

これまで度々、戦闘は起きたが。

俺が仲間にこの姿を見せずに済んだのは、多分学院長のお陰だ。

僕の意図を汲んで、学院長が、僕を戦わせないように、わざとそうなるよう計らってくれたのだろうと思う。

しかし今回、その余裕はない。

戦わなければいけない。

ならば、戦いたくないなんて言ってられない。

皆が命を懸けて、戦ってる。

俺もまた、同じだ。

仲間達と、同じ覚悟で戦う。

足手まといにはならない。

「ぐぁっ…!」

八回。敵の左腕が千切れて吹き飛んだ。

続けざまに、追撃の刃を振るう。

九回。敵の右の膝から下を切り落とす。

これで、もう立てないだろう。

戦闘不能。決着はついた。

僕だったら、きっとここで攻撃をやめただろう。

相手が『アメノミコト』でなかったら、僕は彼を治して、国に返すだろう。

でも今回ばかりは、そんなことは無意味だ。

『アメノミコト』のやり口は、今までの彼らとの攻防で、よく分かっている。

ここに送り込まれた時点で、彼らは死んでいるのだ。

勝とうが敗けようが、彼らに帰る場所はない。

捨て駒とされた彼らに、死以外の救済は有り得ない。

そして彼らは、そのことを知っている。

たくさん、人を殺した暗殺者達なのだから。

「…自分がどんな末路を迎えるかなんて、よく分かってるよね?」





十回目。

俺は、断罪の刃を振り下ろした。