神殺しのクロノスタシス3

…えー。

なんか、凄いショックなんですけど。

「何だ、徘徊中の老人ですか…。お爺さん、さっきお昼は食べたでしょう?早くお家に帰ってください」

僕は、暗殺者の相手をしに来たのだ。

冴えないご老人の話し相手なんて、御免だ。

しかし。

ご老人の方は、僕に用事があるようで。

「…お前か。読心魔法を使う、死に急ぎの魔導師というのは」

見た目通りのしわがれた声で、僕にそう話しかけた。

「…それが何か?」

「儂の役目は、お前をここで足止めすること。お前を行かせる訳にはいかん」

…あ、そう。

「でも僕は、あなたに用事はないんです。さっさとヴァルシーナ達のところに…」

老人の相手をしてる暇はないので、羽久さん達の加勢に向かおう。

その前に、天音さんを救出するのが先だな、と。

思った、そのとき。

ご老人が、刀を抜いた。

まるで老人とは思えない、素早い動きだった。

でも、令月さんよりは遅い。

何より、心を読むまでもなく殺気出し過ぎだから。

僕は飛び退いてそれを避け、教室の机の上に着地した。

僕が立っていた後ろの扉が、バターみたいにスッパリと切られていた。

切れ味は保証します、ってところか。

「…ふーん」

僕は、ご老人の心の中を読んだ。

「可哀想ですね、あなた」

「…可哀想、か。何故(なにゆえ)そう思う?」

「全盛期は『終日組』で重宝されていたのに、老いて身体が動かなくなってきた途端、捨て駒扱いとは」

「…」

このご老人。

若い頃は、優秀な暗殺者として、『終日組』で幅を利かせ。

頭領からも重宝されていたのに。

全盛期を過ぎ、老人になった今。

捨て駒として、ここにいる。

「…儂ら暗殺者は、所詮道具」

それが、ご老人の答えだった。

「『アメノミコト』はそういう組織だ。要らない物、使えなくなった古い道具は捨てられ、新しい物に変えられる。それが『アメノミコト』の理。儂はずっと、その世界で生きてきた」

「だから、自分がこれまで見捨ててきた暗殺者仲間と同じように…今度は自分が見捨てられても、後悔はないと?」

「そうだ」

「へぇ…」

さすが、無駄に年齢を重ねてきた訳ではなさそうだ。

「例え腕をもがれ、足を折られようとも、最期まで己の任務を全うする。それが…」

「あなたの、『終日組』としての矜持ですか。大層立派で、羨ましいですね」

家畜の豚は、家畜の豚として相応しい最期を遂げる。

そしてこのご老人は、自分が家畜の豚だということを知っている。

家畜でも、豚でも何でも羨ましい。

…その一生に、終わりがあるのなら。