神殺しのクロノスタシス3

…戦闘開始から、五分。

敵暗殺者の武器は、無数のクナイだった。

成程、いかにも暗殺者のようで。

鋭い投擲でクナイを投げ、私はそれを可能な限り、雷で撃ち落とした。

撃ち落とせないものは、全て避けた。

あのクナイには、間違いなく。

『アメノミコト』が大好きで堪らない、猛毒が塗られているだろう。

掠っただけでも、死に至る毒が。

絶対に、あれに当たる訳にはいかない。

更に、厄介なのは。

この女の、機動力。

広い食堂の中を、ぴょんぴょんと飛びながらクナイを投げてくる。

これが、うざったいことこの上ない。

私だって、接近戦は得意ではないけれど。

これほど距離を離されると、非常に厄介だ。

…イライラしてきた。

が、こうして私を苛立たせるのが、敵の目論見なのだろう。

私をここに釘付けにして、時間を稼ぎ。

更に私を苛立させ、焦らせ、隙を見せたところを狩る。

そのつもりなのだろう。

なんとも、嫌らしい手管。

いかにも暗殺者らしくて、陰湿。

しかもその戦法、私には、大変効果的だ。

何故なら、私はぐうたらな学院長と違って。

気が長い方ではないからだ。

早くも苛ついてきた。

それに、人質にされている天音さんのことも気になる。

ここでいつまでも、クナイ女と鬼ごっこしている訳にはいかない。

そして、何より私が先程から、ずっと気にしているのは…。

「…その程度か、イーニシュフェルト魔導学院の魔導師というのは」

「…は?」

クナイ女が、食堂のテーブルの上に立った。

食卓の上に土足で立つなど。

この女、まともに教育を受けていないのだろうか。

そうだ。『アメノミコト』所属の魔導師に、まともな教育を受けた者はいないんだった。

だからって、許される行為ではない。

しかも、このクナイ女、今。

何やら、私を挑発するような台詞を言わなかったか?

私の気のせいでしょうか。

「大したことはない。こんな連中に…裏切り者を二人も出し、『終日組』の暗殺者も、何人も敗北し…」

ギリ、と音がして。

クナイ女の下のテーブルが軋み、テーブルクロスが泥で汚れた。

「…」

「馬鹿な連中だ。こんな二流魔導師、さっさと始末して…」

「…黙りなさい」

落ち着いて。

落ち着いて、スマートに始末しよう。

そう思っていたが、その作戦は、破棄する。

理由は、二つ。

「…何だと?」

「…あなたは何やら、勘違いをしているようですね」

一つ目の理由は、私がイライラして、耐えきれなくなったから。

そして、二つ目の理由は。

「私は単に、手加減をしているだけです」

「手加減だと…?お前、私を誰だと思って…」

「あなたが何者だろうと、私にはそんなこと、どうでも良いんですよ」

何様のつもりですか。

私の、目の黒いうちは。

例えフユリ・スイレン女王陛下だって、こんな狼藉は許さない。

私が何より、腹を立てているのは。

私がやむなく、作戦変更を余儀なくされたのは。

「…さっきからあなたが、学院の備品を壊しまくっているからです」

「…………は?」

とぼけた顔で、クナイ女が口をぽかんと開けた。