神殺しのクロノスタシス3

一瞬、皆の手が止まった。

…が。

「仕方ないじゃないですか。学院長が、これで良いって言うんだから」

まぁ…そうなんだけど。

あの会議、長い医務室での会議の後。

ホワイトボードに書き出された、厄介事の数々を見て。

俺達は、これからどうしたものかと頭を抱えた。

まず、聖魔騎士団から応援を呼んで、学院の警備を最優先に…と。

誰もが考えた、そのとき。

シルナが言ったのだ。

「聖魔騎士団からの応援は、必要ない」と。

この期に及んで、何をまた水臭いことを言ってるんだ、と思ったが。

これは、シルナなりの作戦だった。

「敵が洗脳魔法使いで、誰が洗脳魔法にかかっているかの判別がつかない以上、こちらの手数は最小限にした方が良い」

シルナのこの意見に、俺達はハッとした。

確かに、無闇に手数を増やして、そのうちの誰かが、俺達の見ていないところで洗脳魔法を受けてしまったら。

こちらの作戦は掻き回され、疑心暗鬼に陥り、ただでさえ誰を信じて良いのか分からない状況が、悪化しかねない。

ならばいっそ、手数はこの場にいる…正しくは、ジュリスを除いた、イーニシュフェルト組だけに留めた方が良い。

シルナのこの意見には、ジュリスも、ジュリスから話を聞いたシュニィも、難色を示していた。

本当に『アメノミコト』とヴァルシーナが組み、俺の人格の一つであるレーヴァテインと共に攻めてきたなら。

多分…いや、絶対に。

イーニシュフェルト組だけでは、手数が足りなさ過ぎる。

別に、俺達が弱いって訳じゃない。

シルナは勿論、イレースもナジュも天音も、言うまでもなく、非常に優秀な魔導師だし。

令月とすぐりの実力も、よく知っている。

しかも今では、この二人がコンビを組んでいるのだ。

大人顔負けの実力を持っていることは、よく分かっている。

それでも、ヴァルシーナだって手練の魔導師だし。

他ならぬ二十音の身体から作り出された人格、レーヴァテインという女も。

絶対、弱い訳がない。

何より、怖いのは『アメノミコト』だ。

あいつらとも敵対し始めて、もう長くなるが。

奴らの面倒臭さと執念深さ、そしてその実力も、俺達は身を以て知ってる。

それなのに、そんな連中を前に、イーニシュフェルト組だけで相手するなんて。

自殺行為だ。

ジュリスもシュニィも、俺も、その危険性は充分指摘した。

特に、シルナの身を心配するシュニィは、誰よりも食い下がった。

どうか遠慮せず、自分達を頼ってくれ、と。

ここにいる全員、誰か一人でも、欠けてからでは遅いのだ。

だが、シルナは首を横に振り続けた。

それは決して、聖魔騎士団に迷惑をかけたくないから、ではない。

これは、そういう作戦なのだ。

あくまでこちらは少数精鋭で、互いに目の届く範囲内にいる。

こうすれば、洗脳魔法で撹乱されることはない。

それにシルナは、何処に根拠があるのか知らないが。

今回の戦いにおいて、『アメノミコト』は、それほど脅威にはならないだろうと予測していた。

何故、そんなに事態を楽観視出来るのか。

だが、『アメノミコト』をよく知っている令月とすぐりも、こればかりはシルナと同意見だった。

あの鬼頭夜陰が、いくら協力関係とはいえ、異国の小娘に過ぎない、ヴァルシーナの作戦の為に。

ただでさえ欠如しつつある『終日組』の戦力を、簡単に貸すとは思えない。

だからきっと、こちらが少数精鋭であるように。

ヴァルシーナ達もまた、少数精鋭で攻めてくるだろう。

むしろこちらが手数を増やし過ぎれば、ヴァルシーナの洗脳魔法にかかり。

こちらの作戦を掻き回されかねない。

だからこそ、シルナは聖魔騎士団の協力を丁重に断ったのだ。