神殺しのクロノスタシス3

「そ、そんな…。里の賢者達がそんなことをしてたのは、学院長先生の意思じゃないでしょ?」

「どうせ、頭の堅い長老連中が、自分達の権威と威信の為に、研究を独占していたんでしょう。年寄りのやることです」

天音君とイレースちゃんが、私を庇うようにそう言ってくれた。

…ありがとうね。

「…若い魔導師の中には、もっと里の魔導化学を世界に広めようという意見を持つ人もいた。けど…イレースちゃんの推測通り。長老達が許さなかった」

「やはり、そうでしたか」

私も、イーニシュフェルトの里だけで知識を独占するのには、反対していた。

もっと広く世界に伝え、魔導化学を共有すれば。

世界にいるもっと多くの魔導師達によって、更なる魔導化学の発展が見られたかもしれない。

その可能性は、大いにあったと思う。

魔導師は、イーニシュフェルトの里だけに存在していた訳じゃない。

世界中、至るところに魔導師はいたのだ。

中には、里の魔導師にも引けを取らない、優秀な魔導師もいたかもしれない。

ジュリス君が、良い例だ。

しかし、長老達は、そんな若者達の意見に耳を貸さなかった。

言い方は悪いが…イレースちゃんの言うように、頭が堅かったのだ。

世界で最も魔導化学に精通しているのは、イーニシュフェルトの里でなければならない。

自分達一族だけが、世界で最も進んだ魔導師であるという…プライドがあった。

他に先を越されるなんて、絶対許せなかった。

頭の悪い外の連中に、自分達の知識を教えれば、どんな風に悪用するか分かったものではない。

それが、長老達の意見だった。

しかし、一概に長老達の意見が間違っていたとは思わない。

私達が研究していた魔導化学の中には、扱いに困る、危険な研究もあった。

それこそ、安易に里の外に漏らせば、悪用されかねない危険な魔法。

ナジュ君の読心魔法だって、その一つだ。

ナジュ君があの時代にいたら、すぐさま長老達の手によって、里の中に隔離、幽閉されていただろう。

危険な魔法の使い手を、野放しにはしておけないから、と。

ナジュ君は、読心魔法を妄りに乱用している〜とか、よく怒られてるけど。

私にしてみれば、あのくらいは可愛いものだ。

ナジュ君は、正しく読心魔法を使っている。私はそう思う。

何せ、他人の心を読めるのだ。

ナジュ君が本当に悪人なら、いくらでも犯罪に使い放題だろう。

銀行口座番号や、金庫の鍵の在り処も筒抜け。

いくらでも悪用可能だ。

人が今から言おうとしてることを先読みし、からかうくらい、可愛いものじゃないか?

「…金に興味ないですからね、僕」

「…そうだね。そうやって、君は読心魔法を正しく使ってる。でも、世の中には悪いことを考える人がいるから」

危険な魔法や、扱いに注意を要する魔法を、外に漏らさない為。

だからこそ、そういう危険で高度な魔法については、イーニシュフェルトの里の中だけで独占していた。

それにあの頃の私は、里の中でも、大した発言権はなかった。

単なる若造の一人でしかなかった。

若造共に何を言われようが、長老達は考えを変えはしなかった。

お陰で、イーニシュフェルトの里の消滅によって。

里の中で進んでいた、魔導化学の研究も同時に、全て失われてしまった。

研究を覚えている人も、研究を記した書物も、消えてなくなった。

残っているのは。

私の頭の中にある記憶。

そして、ヴァルシーナちゃんの頭の中にある記憶のみ。

「…成程。進んだ魔導化学の知識の中で、ヴァルシーナが何を記憶し、何を使っているのか、特定出来ないってことですか」

「…そうなんだよ」

私の心を代弁してくれて、ありがとうナジュ君。

イーニシュフェルトの里の消滅と共に、ほぼ全ての魔導化学は失われた。

しかし、生存者の頭の中には、僅かながらでもその知識の片鱗は残っている。

私もそうだ。

その片鱗を頼りに、現在の魔導化学を発展させようとしている。

そしてその片鱗は、ヴァルシーナちゃんの中にもあるだろう。

ヴァルシーナちゃんは、私と同じことをしているはずだ。

失われた魔導化学の片鱗を、自分なりに研究し直し、自分に扱えるようカスタマイズしているはず。

故に。

彼女がどんな魔法を得意とし、どんな魔法を扱えるのか、正確に全て把握することは不可能なのだ。