神殺しのクロノスタシス3

「…ヴァルシーナちゃんが使った魔法が何なのか、私にも正確には分からない」

「え…。分からないの?」

そんなガックリしないで、すぐり君。

「彼女の使う魔法を特定するのは…そうだな、イーニシュフェルト魔導学院の図書室から、タイトルの分からない一冊の本を探すようなものだね」

本の内容は、何となく覚えている。

でも、タイトルと作者が分からない。

そんな本を探すのって、凄く大変だと思わないか?

それこそ、検索機にでもかけないと分からない。

しかし、そんな都合の良い検索機は、この世には存在しない。

「ルーデュニア聖王国の魔導化学は、聖魔騎士団魔導部隊と、ここイーニシュフェルト魔導学院を軸に、近隣諸国に比べれば、随分と発達している…と、私は思ってる」

「…確かに。僕も色んな国を見て回ったけど、ルーデュニアほど、魔導化学の発達した国は見たことがない」

「少なくとも、ジャマ王国よりは遥かに発達してるよね〜」

天音君とすぐり君が言った。

「それもこれも、あんたの采配のお陰なんだろう?シルナ・エインリー。自分を中心に、魔導化学の発展に力を注いできた」

「…その通りだよ、ジュリス君」

私は、この国の、この場所で。

少しずつ、魔導化学の発展に力を注いできた。

でもそれは、私に言わせれば…発展ではない。

「それでも、大昔の…私がいた頃のイーニシュフェルトの里の魔導化学に比べれば、全然進んでるとは言えない」

「…!」

私のやっていることは。

衰退したものを、少しでも取り返そうとしているに過ぎない。

「…これだけ魔導化学が発達してる国が、まだ大昔の里の知識に負けてるの?」

驚く令月君。

認めたくはないが、その通りなのだ。

「イーニシュフェルトの里は、魔導化学の中心だった。現代よりも、ずっと進んだ魔導理論を解明していたんだ」

「ほう…。じゃ、僕の読心魔法も、もっと上手く扱える魔導師とか、いたんですかね」

ナジュ君の問いに、私は苦笑した。

「読心魔法そのものはあったよ。でも、君ほど熟練した読心魔導師は、里にもいなかったなぁ」

「へぇ。なら僕は、人類史上最強の読心魔法使いなんですね」

私の知る限りでは、そうだね。

「成程。学院長の変態的な分身魔法も、イーニシュフェルトの里時代の名残という訳ですね」

…イレースちゃん。

その通りなんだけど、変態的な、は入れないで欲しかったかな。

「そんなに発達してたなら、何で今はこんなに…落ちぶれちゃったの?」

令月君が聞いた。

当然の問いだ。

「神々の聖戦と、イーニシュフェルトの里の崩壊に伴って、魔導理論を記した書物や、魔導理論を記憶する人間が、全滅してしまったから…。私とヴァルシーナちゃんを除いて」

「…ふーん…」

邪神を封じる『神殺しの魔法』の犠牲となり、里の賢者は私と…ヴァルシーナちゃんを除いて、全員が死んだ。

それに…。

「それだけじゃないだろ?」

ジュリス君が、私の代わりに補足してくれた。

「それだけじゃない、とは?」

「イーニシュフェルトの里は、研究した魔導化学のほぼ全てを、自分達だけで独占してた。里の外には漏らさないように、厳重にな」

…そうなんだよ。

「何それ。研究したこと全部、独り占めしてたってこと?」

「外にもおこぼれくらいはもらえたが、それだって重要な部分は、里の連中だけが独占してたよ。だから、同じ時代を生きてるって言っても、俺には学院長やヴァルシーナみたいな、特殊な魔法は使えねぇ」

「へぇ、良いご身分ですね〜。大事な情報は自分達が握り締めて離さず、下々の者には、おこぼれだけを与えてた訳ですか」

…その通り過ぎて、言い返す言葉がないね。