神殺しのクロノスタシス3

「じゃ…つまり、ヴァルシーナと、『アメノミコト』が、全勢力で徒党を組んで攻めてくる、ってことは、ないと思って良いんだな?」

と、確認を取るジュリス君。

「確かなことは言えないけど…。それはないと思う」

「『アメノミコト』の手を借りたとしても、精々一部だけだろうね。『終日組』も、先の戦闘でだいぶ削られただろうし」

貴重な戦力を、ヴァルシーナちゃんごときに託したくない、ってことか。

「ヴァルシーナに貸すであろう、その一部の戦力だって…きっと大したことないだろうから、安心していーよ」

「すぐり君?」
 
「『終日組』の本命は絶対、自分の傍から離さないだろーし…。来るとしたら、俺と同じ、捨て駒扱いの二流暗殺者ってところかなー」

…すぐり君。

そんな言い方は…。

君は二流なんかじゃない、と…私が言おうとする前に。

「だとしたら、非常に厄介ですね」

「うん。厄介だね」

イレースちゃんと、天音君が言った。

「すぐりさんレベルの暗殺者が、ヴァルシーナさんって人と共闘するんでしょう?怖くて、枕を高くして寝られないよ」

「全くです。一人でもこんなに厄介なのに、三人四人と連れてきてみなさい。手に負えませんね」

「…」

…すぐり君、そんな驚いた顔しなくても。

君の実力は、ここにいる誰もが知ってるよ。

君が、どれほど強く、優秀な魔導師であることは。

「なら俺達は、高く見積もって、ヴァルシーナとレーヴァテイン、それからすぐりレベルの『アメノミコト』の暗殺者十名以下、これらの敵と戦わなきゃならない…かもしれない訳だな」

「そういうことですね。ま、あのプライドの高いヴァルシーナのことですから、『アメノミコト』の手助けなんか要らない!って、意地張って共闘を拒むかもしれませんが」

「そうなったら…敵はヴァルシーナとレーヴァテインの二人で、少しは楽なんだけど…」

…そこは、どうなるか分からないね。

こればかりは、あくまで推測するしかない。

だが、令月君達の言う通り、『アメノミコト』全勢力が、ヴァルシーナちゃん達と徒党を組んで攻めてくることはないだろう。

ジャマ王国国内にも、少なからず敵はいるのだろうし。

私達ばかりに、構ってはいられまい。

だから多分、これはヴァルシーナちゃんの考えた、ヴァルシーナちゃんの作戦だ。
 
鬼頭がその作戦に、どれだけの手を貸すつもりがあるのか。

それとも、全く手を貸すつもりはないのか…。

いずれの可能性も考えられるが。

「…それで?厄介事は以上か?」

「…いや、個人的に…ずっと疑問に思ってることがあるんだけど、言って良い?」

と、挙手する令月君。

「議論の場だ。立場も年齢も関係ねぇ。言いたいことは何でも言えよ」

「ありがとう。じゃあ聞くけど…。…ヴァルシーナは、どうやってレーヴァテインなんて人格を作り出したの?そんな魔法があるの?」

…それは。

素朴だけど、確かに重要な質問だな。

私達が抱える厄介事の一つに、数えても良いくらいには。
 
「世の中、色んな魔法がありますからね〜。学院長の気持ち悪い分身魔法とか」

…ナジュ君に悲しいことを言われました。

が。

「えぇ、確かに色んな魔法がありますね。私も知り合いにいますよ。無遠慮に人の心を読む読心魔法の使い手が」

私の代わりに、イレースちゃんが手痛い報復。

その知り合い、私も知ってる。

「それは大変ですね。成敗した方が良いかもしれません」

「そうですね。いつ成敗しようか、いつも考えてますけど、実はそいつ不死身でしてね。成敗しようにも出来なくて、困ってるんです」

「それは大変ですね〜」

…実に不穏な会話をありがとう。

それはともあれ。

「…あいつ、イーニシュフェルトの里の出身なんだろ。いわば、あんたの同胞だ、シルナ・エインリー。あんたなら、ヴァルシーナが使う魔法について、心当たりがあるんじゃないか?」

「…」

ジュリス君が、ハッキリと私にそう尋ねた。

…あの時代に生きていた、ジュリス君だからこそ…聞ける質問だろうね。

私としても、あまり思い出したくはないし、彼らに聞かせたくはない。

けれど…。

あの混沌の時代を生き、使命を託された私の決断を受け入れてくれた、ジュリス君だからこそ。

私は、答えなければならない。