神殺しのクロノスタシス3

「…成程」

全て話し終えると、ナジュ君は横になったまま頷いた。

「それはまぁ…随分と…厄介なことになりましたね」

「…そうだね」

厄介事が多過ぎて、いちいち確認していられないくらい。

でも、確認しなければならない。情報を共有しなければならない。

「…ちょっと、ホワイトボードお借りしますよ」

「あ、はい…」

イレースちゃんが、医務室のホワイトボードの前に立ち。

黒いマーカーペンを手に取った。

一つずつ、問題を羅列していく。

「はい、一人ずつどうぞ」

「…まずは、敵…レーヴァテインが、羽久と同じ容姿をしていることだね」

私としては、これが一番…心に響く。

羽久を疑ったことなど、私には一度もなかったから。

羽久が私に殺意を向けることなんて、有り得ないと思っていたから。

羽久の姿で私に敵意を向けられて、私は平然としていられるだろうか?

…正直、自信がない。

「敵が味方に変装する…。暗殺では常套手段だけど…」

「こっちがやられる側となると、厄介極まりないよね〜」

と、元暗殺者二人組。

その通りだ。

ここにいる皆、羽久の姿を見て、「敵」と認識する者はいない。

それがいきなり、本物の羽久かどうか分からないとなると。

またしても、レーヴァテインやヴァルシーナちゃんの変装に騙され、撹乱されてしまう。

すると。

「しかし、それは僕がいれば解決しますよね」

ナジュ君が、横になったまま言った。

「レーヴァテインとかいうのも、それを危惧して、まず一番に僕を潰しに来たんでしょう?どれだけ姿形を似せようと、僕の読心魔法の前には無力です」

「…そうだね」 

ナジュ君の前に、変装や成りすましは無意味。

姿を見た瞬間、正体がバレてしまう。

しかし。

「当然、レーヴァテインもヴァルシーナも、それは予測してるはずですよ」

イレースちゃんが、ホワイトボードに書きながらそう言った。

「確実に、あなたを警戒して、あなたを引き離し、あなたのいない場所で学院長を狙うでしょう」

「でしょうね〜。ヴァルシーナの狡猾さは、僕もよーく知ってますし。何らかの手段で、僕とレーヴァテインを接触させないようにするでしょうね」

「…それって、またナジュさんを潰して、読心魔法を無効化させるってこと?」

天音君が、眉をひそめて言った。

「それが一番効率良いですし、そうするんじゃないですか?多分僕を一番に潰して、それから学院長を暗殺。いやぁ皆にモテて困りますね僕は」

「…ふざけないでよ」

珍しく、怒った口調だった。

天音君は、ナジュ君を真っ直ぐ睨みつけた。

「不死身だからって、自分の命を軽々しく扱わないで。君の、そういうところは…本当に嫌いだ」

「…」

…天音君。

「いくら壊されたって良い?何度死んでも治るから?だから何?自分の命の価値を何だと思ってるの?君は便利な盾でもなければ、便利な使い捨ての読心魔法魔導師でもないんだよ」

「…。…分かりました。済みません」

天音君の本気の怒りに、ナジュ君も素直に謝った。

ナジュ君が、一番に狙われるのは分かってる。
 
そして、天音君の言う通り。

ナジュ君の命は、軽々しく失われて良いものではない。

私もそう思う。

「自分の命を…もっと大事にして」

「…分かりましたって」

何度も念を押す天音君に、今度はジュリス君が。

パンと手を叩いて、仕切り直した。

「おいおい、話が脱線しかけてるぞ。対策はともかく、まずは厄介事を羅列するのが先だろ」

「…そうだったね」

ジュリス君、君はいつも冷静だね。

君がいてくれて良かったよ。

一番冷静でいなければならないはずの私が、一番動揺している今は。