神殺しのクロノスタシス3

「あれ?」

「あの…ベッドの横」

すぐり君の、指差す先。

血塗れの、ベッドの傍に。

ゴルフボールくらいの赤い肉の塊が、コロンと落ちていた。

あれって…。

…形状からして、恐らく心臓だ。

じくじくと鈍い音を立てて、細胞分裂が始まっていた。

「…!再生しかけてるんだ…!」

気づくなり、天音君は血に汚れるのも構わず、カーペットに膝を付き、再生を促進する為の回復魔法をかけ始めた。

これほど引き裂かれた後でも、既に再生を始めているとは。

「…こんな状態になっても、死ねないんですね、あの人は」

「イレースちゃん…」

「不死身の身体というのは、きっと、私達が想像するよりずっと…過酷なものなんでしょうね」

そう言って。

イレースちゃんもまた、服が血で汚れるのも構わず、散らばった肉片を集め始めた。

少しでも、残った肉片を繋げれば…その分再生は早くなる。 

令月君とすぐり君も、無言でイレースちゃんに続いた。

それはまるで、壊れたジグソーパズルのピースを掻き集めるかのようで。

…そして、何より耐え難いのは。

この悲惨な光景を作り出した原因は。

ナジュ君を、こんなにも苦しめて殺し、また死ねない絶望を抱かせたのは。

他でもない、この私のせいなのだという事実だ。

裏切り者。

レーヴァテインの…羽久の身体の、羽久の声で言われたあの言葉が、脳裏をよぎる。

私が裏切ったせいで、苦しむ人間が…一体何人いることか。

それなのに私は、どうして。

どの面をさげて、のうのうと生きていられるんだ?

「…っ」

堪えようのない感情が込み上げてきて。

しかし私は、それを必死に抑え込んだ。

悲嘆に暮れ、自分を責めるのは後回しだ。

とにかく今は、ナジュ君を助けなければ。

少しでも早く。

血塗れのカーペットに足を踏み入れるなり。

一瞬脳裏に、残酷な考えが浮かんだ。

彼が戻ってきてくれれば、読心魔法によって、羽久とレーヴァテインの区別がつくようになる。

どうして私は、こんなことを考えてしまうんだ? 

この期に及んで私は、ナジュ君を自分の戦力の一つとしか考えてないのか。

私のせいで、こんなにも悲惨に破壊されてしまった彼に対して。

再生したら、また利用しようって?

…どうして私は、こんなにも醜い。

…。

…しっかりしろ、シルナ・エインリー。

分かっていたことだろう。

あの日、世界を裏切った日から。

「…ごめんね、ナジュ君」

君もまた、私の誤った選択の犠牲者なんだ。

心優しい、仲間思い、生徒思いの学院長。

その裏で私は、生徒や教え子、自分のもとにいる仲間達を利用し、自分の大切なものだけを守ろうとしている。

そんな、利己的な人間なのだ。

許して欲しい、とは言えない。

許されることではない。

だから、謝るなんて筋違い。

謝るくらいなら、あんな選択はしなければ良かった。

それでも私は、謝らずにはいられなかった。