神殺しのクロノスタシス3

――――――…先程私を殺そうとした「羽久」は、羽久ではなかった。

二十音が作り出した…いや。

ヴァルシーナちゃんが、二十音の身体から「呼び出した」人格。レーヴァテイン。

彼女は私に敵対し、ヴァルシーナちゃんに協力している。

あのメモや、イレースちゃんのお使い等のトラップの意味が、ようやく分かった。

全ては、ヴァルシーナちゃんと、レーヴァテインの仕業だったのだ。

だが、今はそんなことどうでも良い。

二十音が、出てきてしまった。

そちらの方が、余程重要だった。

二十音の放つ殺気は、先程の私とは比較にならない。

二十音はあの二人、レーヴァテインとヴァルシーナちゃんを、完全に私の敵とみなしてしまった。

そして二十音は、私の敵を許さない。

いかなる手段を以てしても…周囲にどれだけ被害が出ようと構わず…。

それこそ、国どころか、世界の秩序を脅かしてでも…私の敵を殺す。

二十音を宥められるのは、私だけだ。

下手に動けば、この部屋にいる…令月君やすぐり君、イレースちゃん、

そして、聖魔騎士団から応援に駆けつけてくれたのであろう、ジュリス君を巻き込むことになる。

長年の勘からか、ジュリス君だけは、自分の気配を静かに消して、二十音を刺激しないようにしていた。

それが有り難かった。

「二十音。おいで」

私は、笑顔であの子に手を伸ばした。

何も怖いことなんてない。

私の敵は、もうここにはいない。

だから、そんなに殺気立つ必要はないのだ。

「…しーちゃん」

「おいで二十音。ぎゅってしてあげるから」

「…!」

二十音は、子供のように私のもとに駆け寄ってきた。

その手に、もう懐中時計は消えていた。

そのことに安堵しながら、私は二十音を抱き締めた。

強く抱き締めた。

「よしよし、良い子だね二十音…」

「…しーちゃん…」

「良いんだよ、何も心配しなくて。私達を脅かすものは何もないから」

二十音は、幸せそうに私の胸に顔を埋めていた。

張り詰めていた殺気が、嘘のように消えていた。

…良かった。

「大丈夫、大丈夫…。良い子だね二十音。良い子、良い子…。よしよし…」

「…」

そうして、しばし二十音の頭を撫でてやっていると。

ガクン、と二十音の身体が私にもたれかかってきた。

…帰ったかな。

「…もう大丈夫だよ」

私は、スースーと寝息を立てる二十音…もう羽久かもしれないが…の身体を抱き起こしながら、皆に伝えた。