神殺しのクロノスタシス3

「あなたは、令月さんに何の憎しみも持ってない。嫌ってはいるけど、憎んではいない。だったらやり直せる。今すぐじゃなくて良い、何年でも良い、何百年、何千年かけても良い。あなた達はまだ若い」

良いね、若いって。
 
それだけで一つの財産だよ。

「時間をかけて、お互いのことを知って、お互いの良さを認め合って。自分にないものを相手に見つけて、相手にないものを自分が見つけて、与え合って補って。誰かの価値観じゃない。あなたの、あなた達の価値観で、お互いを認め合えば良いじゃないですか」

「…簡単に言うね」

まぁ、それが出来たら苦労はしない、って奴だよね。

「でも、実際そうですよ。何もかもが優れてて、何もかも完璧な人なんて何処にもいない。皆誰かを羨ましいと思ってて、誰かに憧れてる」

人間は、貪欲な生き物だからな。

自分も充分綺麗な宝石なのに、他の人の宝石の方が綺麗だと思ってしまう。

「あなたが令月さんを羨ましいと思うように、令月さんもあなたを羨ましいと思ってる。お互いが、お互いにないものを持ってるから」

皆、隣の芝は青いってね。

自分の芝だってちゃんと青いのに、それが見えない。

僕も、人のこと言えないんだけどね。

実際自分の芝は役立たずだと思って、暴走して人格消えたり、記憶消えたりしてたし。

だから、あまり偉そうには言えないが。

でも、僕は素直に。

「仲良く出来るものなら、そうして欲しい。あなた達は、同じ国の、同じ組織から来た、同じ痛みと同じ苦しみを知ってる、唯一無二の存在だから」

僕がそう言っても、すぐりさんは絶対認めないだろうけど。

そんな相手、普通いないよ?

僕ら大人達は皆、違う場所で生まれて、違う場所で育って、違う人生を生きて。

偶然、このルーデュニア聖王国の、イーニシュフェルト魔導学院という場所に辿り着いたから、一緒にいるけど。

そんな、子供の頃からずっと同じ場所で生きてきました、なんて相手。

いないでしょ。僕がすぐりさんと同い年の頃の同級生なんて、もうこの世の何処にもいないだろうし。

「今は出来なくても、いつか仲良くなってください。いつか友達になって、隣に立ってて安心出来る存在になってください。これは命令とかじゃなくて…そうであったら良いなという、汚い大人の願いです」

だから、別に無理に叶えなくて良い。

叶わなくても良い。勿体ないなとは思うけど。

「…じゃ、言いたいことは言ったんで、僕は帰りますね」

心読んでないから、今のすぐりさんの気持ちは分からない。
 
少しは心が動いたか、それとも。

僕なんかに何を言われても、「そんなの知るか」と思ってるか。 

別にどちらでも良い。

さっきも言ったが、この二人にはまだ時間がある。

人生は長い。

いつか分かってくれれば良い。

すると。

「…ナジュせんせー」

「はい?」

「…ナジュせんせーはさ、汚い大人だけど」

知ってる。

「でも…多分、良い教師になれるよ」

…ほう。

「でしょ?僕、イーニシュフェルト魔導学院1の人気教師の座を狙ってるんで、宜しく」

「もう帰っていーよ」

「はいはい。じゃあ帰ります」

そう、僕は汚い大人。

おまけに、両手を血で濡らした、最低な人間。

でも。

「…そんな人間でも、誰かを救いたいなんて生意気なことを考えてしまうんですよね」

だって僕、汚い大人ですから。