神殺しのクロノスタシス3

「じゃあ続き。賢者様は闇の神様を滅ぼす方法を考えつきます。その方法とは、えーと、よく分かんないけど、闇の神様の魂を一人の人間に移植して、その人間を殺すことで、中にいる闇の神様を一緒に殺してしまおうという作戦だったらしいですが」

「何、その曖昧な解説」

しょうがないじゃないか。

僕だって、又聞なんだからさ。

しかも、ヴァルシーナからこの話を聞かされたときの僕は、あの頃、自分が死ぬ方法を模索することで頭いっぱいで。

他のことなんて、どうでも良かった。

だから、ほとんど聞き流していた。

「とにかく、賢者様は、闇の神様に捧げる生贄を探し始めます。何百何千年とかかって、ようやく生贄候補を見つけ、その生贄が、ちゃんとした依代に育つように洗脳し、従えていましたが…」

「…」

「やがて賢者様は、自分の中に、今までになかった感情が芽生えていることに気づきます」

「…感情?」

元暗殺者の君達には、分かりにくい感情だろうか?

でも、あるのだ。

この世には、人を狂わせ、正しい道から、あっという間に外道に堕とす感情。

その感情の名は。

「愛ですよ」
 
人は、愛に狂わされる。

愛は、人を殺し、人を救い、人を動かす一番の原動力なのだ。

「賢者様は、気づいてしまった。生贄にするはずの人間に出会うまで、自分はずっと一人ぼっちだったことに。その生贄さんに会って、初めて一人ぼっちじゃなくなったことに。生贄さんのことを…愛してしまったことに」

「…」

「賢者様は葛藤します。生贄さんを生贄にしたくない。愛したい。愛する人を殺したくない。愛する人とずっと一緒にいたい。でもそれは、自分を信じて死んでいった同胞を、裏切る行為に他ならない」

「…」

「闇の神様を殺すのは、正しい道。だから生贄さんは、ちゃんと生贄に捧げなければならない。そうすれば、世界中の誰もが救われる。賢者様を信じて死んでいった同胞の悲願も叶えることが出来る。自分一人が、自分一人の、自分勝手な愛を捨てさえすれば、多くの人を救える。だから賢者様は、正しい道を行くべきでした」

「…でした、ってことは…正しくない道にいったんだ?」

そう、鋭いね。

「えぇ。賢者様は、自分一人の自分勝手な愛を、捨てることが出来ませんでした。彼は一族の悲願も、世界中の人々の命も、己の使命もかなぐり捨て、自分一人の愛を守ることを選びました」

「…じょーねつてきな話だねー」

だってさ。

…学院長。

「そして賢者様は、今でも苦しんでいます。自分の選択のせいで、これまで死んでいった人、これから死ぬ人を思って苦しんでいます。それでも自分の愛を捨てることが出来ない、愚かな自分を呪い、悩み、葛藤しています。…今も」

「今も?」

「えぇ、今も。…イーニシュフェルト魔導学院の、学院長室で」

「…」

その顔。

やっぱり、知らされてなかったんだな。