神殺しのクロノスタシス3

「で、次は…。粘り気が出るまで、捏ねる」

「えー、この中に手ぇつけるの?なんか気持ち悪っ」

お前がやったんだろ。

「『八千代』がやってよ」

「分かった」

レシピ読む係と、調理する係チェンジ。

令月は袖を捲り上げると、カオスなボウルの中に手を突っ込み。

ぐちゃぐちゃと捏ね始めた。

「うわー、気持ち悪そう。引き裂いた腹の中に手ぇ突っ込んで、内臓掻き回してるみたいな音がする」

「うん。引き裂いた腹の中に手を突っ込んで、内臓掻き回してるみたいな感触がする」

その例えやめろ。

超グロテスク。

天音よ。やっぱり二人に任せっきりにしないで、傍についていてやるべきだったんじゃないか?

もう手遅れのような気がするが。
 
「どう?粘り気出てきた?」

「ベチャベチャする」

だろうね。

あれだけ大量に牛乳投入したら、そりゃそうなるよ。

しかし。

「でも、ちょっと固まってきたよ」

大量のパン粉と、大量の塩コショウのお陰で。
 
完全な液体からは逃れ、白くて茶色っぽくて若干赤黒い、奇妙な塊が出来始めていた。

「おっ、よく分かんないけど、良い感じじゃ〜ん」

これが良い感じなら、全国の主婦の皆様が卒倒するな。

「次は何すれば良いの?」

「そのグロい塊を、楕円状に丸める」

自分でもグロいって言っちゃってるし。

ペチペチ、と言うよりはグチョグチョ、と肉ダネ(?)を形作っていく。

が、あまりにも肉ダネが柔らか過ぎて、上手くまとまらない。

当たり前だ。

それなのに。

「出来たよ」

何が?

「じゃあ、次はフライパンにサラダ油を敷いて…。サラダ油って何?」

悲報。

『アメノミコト』元暗殺者組、サラダ油をご存知でない。

「サラダは野菜だよね」

「サラダから油が出るの…?よく分かんないけど…野菜敷いておけば良いのかな」

と、言って。

すぐりは、付け合わせ用に天音が準備していた、リーフレタスと人参を掴み。

切ることもしなければ、人参の皮を剥くこともなく。

そのまま、フライパンに投入。

めちゃくちゃだ。

「はい、サラダ投入完了」

「油は…?」

「油は…肉焼いてりゃ、自然と出るんじゃない?」 

「そっか。人間も、炙ってたら脂出るもんね」

物凄い会話してる。

で、そこに疑問を抱かない二人。

つくづく、無知とは恐ろしいものである。