神殺しのクロノスタシス3

僕と『八千歳』との攻防は続いていた。

『八千歳』の武器は、糸だ。

『八千歳』が、自身の魔法で作り出した糸。

長さも太さも速さも、彼の思いのまま。

あの糸に触れられたら、腕でも足でも首でも、バターのように切られる。

だから僕は、『八千歳』が繰り出す無数の糸を掻い潜り、あるいは小太刀で両断しながら、彼に接近しなければならなかった。

おまけに。

「!」

目の前に現れた『八千歳』の糸を両断しようとして、僕は手を止め。

両断する代わりに、身を屈めてかわした。

あれは切ってはいけない。

毒だ。

『八千歳』は、僕とは違う。

僕のように、偏った魔導適性の持ち主ではない。

炎魔法だろうが氷魔法だろうが、『アメノミコト』お得意の毒魔法だろうが。

自在に操ることが出来る。

自身の作り出した糸に、毒魔法を練り込むことも出来るのだ。

毒を練り込んだ糸を切れば、小太刀を通して、僕の身体にも毒が回る。

どの糸に何が練り込まれているのか、見極めながら戦わなくては。

そして僕には、それが出来る。

『八千歳』は、木々の密集した地形を活かし、自分の身を隠しながら、無数の透明な糸を張り巡らせていた。

…見極めろ。

『八千歳』の糸を切り刻むにつれ、昔の勘が戻ってくるのを感じていた。

怖くない。

こんな糸、怖くもなんともない。

「…弱いね」

僕は、無数に張り巡らされた糸の、小さな隙間を潜り抜け。

力魔法で強化した斬撃で、全ての糸を切り刻んだ。

そして。

気配を辿り、見つけた先の木を斬り倒した。

そこに、『八千歳』がいた。

「…へぇ」

全ての糸を切られたにも関わらず、『八千歳』は少しも臆していなかった。

「さすがに衰えてはいないようだね、安心したよ」

「そういう君は、何の進歩もしてないのかな?相変わらず、貧弱な糸しか使えてないみたいだけど」

普通の人間を殺すなら、充分でも。

同じく蟲毒を生き延びた仲なら、こんなものは恐れるに足りない。

「まさか。半年もぬくぬく遊んでた君と、一緒にしないでくれるかな」

そう言うなり、『八千歳』の十本の指から、無数の糸が放出された。

さっきよりも格段に速い。

でも、対応しきれない速度ではない。

僕は両手の小太刀を振り回して、一本ずつ捌いていった。

この程度なら…。

…と、思ったそのとき。

「あぐっ…!」

グサリ、と。

背中に、何かが突き刺さった。

痛みに顔をしかめながら、僕は更なる殺気を感じて振り向き。

今にも突き刺さろうとしていたもう一本を、かろうじて両断した。

しかし。

「はぁ…はぁ…」

先程突き刺さった一本目の糸。

何だったんだ、あれは。

「…驚いた?」

『八千歳』は、両手に一本ずつ、長い糸…いや、ワイヤーのようなものを生やしていた。

これは…初見の技だ。