神殺しのクロノスタシス3

まぁ、あれだ。

シルナはもとから、自分の生徒を怒るということが出来ない人間だからな。

こうなるのは目に見えていた。

「お仕置きも拷問もしないから!とにかく、仲良くしようよ。ね?仲良く」

「却下」

一刀両断。

「そ、そんなぁ…。何で?令月君良い子だよ?」

「知らないよそんなの。良い子だろうと悪い子だろうと、誰だって生理的に『あーコイツといたらムカつくわー』って思う奴、いるでしょ?」

と、言うと。

シルナは、

「い、いやそんなことはないよ!誰とだって、平和的に話し合えば仲良く…」

あくまで平和主義を貫こうとしたが。

「まぁ、分からなくはないですね。ムカつく奴はどうやってもムカつきますし」

「分かりますよその気持ち。私だって、怠惰な学院長を見る度、一日に三回は『この人はパンダの生まれ変わりなんだ』と自分に言い聞かせて、怒りを鎮めてますから」

ナジュとイレースが、強烈な横槍を入れた。

特にイレース。

お前、一日に三回もそんなこと考えてたのか。

ごめんな、気づいてやれなくて。

「わ、私、パンダだと思われてたの…?」

茫然自失とするシルナ。

そう思われても仕方ない。普段の行いだな。

「ほら。大人だって嫌いな人はいるんだから、俺が『八千代』を嫌いでも、文句は言えないでしょ」

「そ、そ、それはそうかもしれないけど…でも!折角同じ国の出身なんだし、仲良く…」

「じゃあルーデュニア人は、一切喧嘩しないの?」

「えっ」

不意を突かれるシルナ。

「ルーデュニア人同士なら、誰でも仲良くなれるの?皆お友達?そんな訳ないでしょ。生まれた国が同じだからって、誰でも仲良く出来ると思ったら、大きな間違いだよ」

確かに。

と、言いたくなった自分がいる。

同じルーデュニア人でも、ムカつく奴はムカつくし、絶対コイツとは仲良くなれない、って思う奴はいる。

それはすぐりが正論。

でも、シルナは諦めない。
 
あくまで、自分の生徒は皆仲良しであって欲しいと思っている。

「だっ…け、ど、いくら嫌い同士でも、大人は皆、上手に対応してるよ?少なくとも最低限の礼儀くらいは…」

「だーって、俺子供だもん」

都合の良いときだけ子供になる男、すぐり。

実際子供だから仕方ない。

「あうぅぅ…で、でもでもでも!うちの!イーニシュフェルトの生徒は!皆仲良し!仲良くするの!」

「何それ。そんな校則でもあるの?」 

「あるの!」

ねぇよ。

勝手な校則を作るな。

「それに…だって、令月君は、すぐり君と仲良くしたいでしょ?」

シルナは、すぐりではなく令月に話しかけた。

すると、令月の方は。

「そうだね。仲良く出来たら良いね」

令月には、すぐりと仲良くする気があるらしい。

「ほらぁ!だってすぐり君!仲良くしよう!ね!」

「残念だったね。『八千代』にその気があっても、俺にはま〜ったくないから。一人で勝手にお友達してれば良いよ」

「あ、待ってすぐり君」

シルナが止めるのも聞かず。

すぐりは、勝手にスタスタと学院長室から出ていってしまった。

…あーあ…。