神殺しのクロノスタシス3

学院で、不死身先生が怒りの炎を燃やしていることも知らず。

僕は、指定のポイントに辿り着いていた。

国境に近い、深い森の奥だ。

…成程。

ここなら、近隣住民に見られることもない。

下手に市街地で戦えば、住民に通報される可能性がある。

人気のない場所なら、周りを巻き込まずに済む。

僕としても、有り難い「気遣い」だ。

こんな無益な戦いに、誰一人巻き込みたくはない。

「…ちゃんと一人で来たね、偉いよ『八千代』」

「『八千歳』…」

彼もまた、同じく黒装束に、黒いマントを身に付けて、そこに立っていた。

準備万端、ってところか。

お互いに。

「…もう一人の姿が見えないけど」

来てるんじゃないのか。相棒が。

「彼は周囲を見張ってもらってる。横槍を入れられたら堪らないからね」

「…そう」

周囲に、『八千歳』以外の人間の気配を感じない。

本当に、もう一人は戦いに介入する気はないらしい。

助かる。

正真正銘、本当の一騎討ちだ。

「…じゃあ、始めようか『八千代』。とうとう、俺の方が君より上だと証明を…」

「…随分おめでたい頭だね」

「…何?」

段々と。

段々と、自分の中に黒いものが広がっていくのが分かった。

かつての、『アメノミコト』頭領付き親衛隊、『終日組』にいた頃の自分に戻っていくのを感じた。

「分からない?『八千歳』、君には僕と違って魔導適性がある。僕みたいに偏ったものじゃなくて、本物の魔導適性が。それなのに、どうして僕の方が頭領様のお気に入りだったと思ってるの?」

「…!」

「答えは単純、魔導適性の優劣を含めても、僕の方が優秀だったからだよ」

『八千歳』の殺気が、爆発的に膨れ上がった。

恐怖は感じなかった。

「それとも、半年暗殺稼業から離れて、僕が鈍ってると思って油断してる?本当におめでたいね。元々僕の方が、君より優秀なんだから。せめてそれくらいハンデがないと、君に勝ち目はないよね」

「…ふふ」

ゆらり、と『八千歳』の糸が揺らめいた。

来る。

音速で放たれたその糸を、僕は小太刀で両断した。

「…本当に…癪に障るよ君は…」

糸を防がれた『八千歳』は、怒りに震える声でそう言った。

「やっぱり君は…俺が殺さなきゃ気が済まない…」

「そう」

そっちがその気なら、それで良いよ。

「…やってみなよ。出来るなら、ね」