神殺しのクロノスタシス3

30分ほどゲロッ…リバースした後。

吐瀉物の匂いが充満する部屋に、用意しておいた消臭剤のスプレーを吹きまくった。

何でも、備えあれば憂いなし、ってね。

「あぁ…死ぬ…。死んだ…死んだと思った…。『終日組』の暗殺者より怖かった…」
 
「…」

『終日組』の暗殺者、焼きナス以下?

しかし。

「生き残った…。俺は生き残ったよ…」

「そうですか」

不死身じゃない人は大変だな。生き残るのに苦労して。

死にかけた顔をして、すぐりさんはぐったりとしていた。

吐瀉物臭いので、そんなすぐりさんにも消臭スプレーをかけておいた。

汚物扱いされてるのに、全く何も言わない辺り。

相当大変だったみたいだな。 

でも、やり切った。

だからこそ、今ここにいるのだ。

僕は、さっさと吐瀉物入りのエチケット袋を処分し、すぐりさんを介抱した。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫なように見える…?」

「見えませんけど、でも、やり遂げたんですね」

「そーだよ…。やり遂げたんだよ褒めてよ…」

「わー凄い凄い。おめでとうございまーす」

「…褒め方が雑…」

褒めてるじゃないか。

…結局。

すぐりさんは、ナスを克服出来なかった。

それなのに彼は、今日、ツキナさんのお手製ナス料理を食べたのだ。

ぐったりして喋らないから、勝手に心を読ませてもらうと…。

えー、ナスの煮浸しと…焼きナス。ナス天か。

うん。ナスオンパレード。

しかし、すぐりさんは食べた。

え?嫌いなのにどうやって食べたのかって?
 
そこは、僕のアドバイスに従ったらしい。

これは、料理をしていて気づいたことなのだが。

ナスは万能野菜だが。

素材の味を味わおうと思ったら、やっぱり素朴な味付けの和食になる。

そして、和食というのは。

大抵の場合、大根おろしとポン酢をかけておけば、大体美味い。

そこで、僕はすぐりさんにアドバイスした。

もし、ツキナさんがナス料理を出してきたら。

「俺、これには大根おろしかけて食べるのが好きなんだ!」って全力アピールして。

全力で、大根をすりおろせ、と。

心を読むに、すぐりさんはそのアドバイスに従い。

大根を、丸々一本すりおろし(凄い労力だ)、

ナスが見えなくなるほどたっぷり、大根おろしをかけて。

そこに、ナスが泳ぐほどポン酢をぶっかけ。

自分が食べてるのは大根おろし、自分が食べてるのは大根おろし、と暗示をかけながら。

必死に自分を誤魔化しながら、ナス料理(と言うか大根おろし)を、平らげたらしい。

で、普通の人間だったら、そんなにたくさん大根おろしを大量に乗せていたら。

余程の大根おろしファンでもない限り、「何だかおかしいなぁ、すぐり君ナス苦手なのかな?」と察しもするのだろうが。

残念ながら、すぐりさんの想い人、ツキナさんは、頭の方が残念なので。

青ざめた顔で、必死に大根をすりおろしているすぐりさんを見ても。

ナス料理に、大量の大根おろしをぶっかけ、皿の中がポン酢の海のようになっても。

「すぐり君、本当に大根おろし好きなんだね〜」と、笑顔で言ったらしい。

あの子、本当に頭残念だな。

まぁ、僕が床でミンチになってても気づかなかっ(ry

ともあれ。

どれだけ大根おろしで誤魔化そうとも。

結局、ナスはナスだったらしく。

ツキナさんの手前、青ざめた顔で「美味しいよーありがとー」と言っておきながら。

全力で、吐き気を抑えまくり。

で、下校時刻が近づき、ツキナさんと別れるなり、ここに来て。

我慢しまくっていたモノを、リバースしたと。

そういう訳だ。

なんか、まぁ、あれだね。

すぐりさんの恋路も、大変だね。

僕は良かったなー。出会ったときから相思相愛で。

ツキナさんも、まさかさっき一緒に食べたナス料理が、既にすぐりさんの体内から消えているとは思ってないだろうな。

そう考えると、ツキナさんも気の毒。

折角作ったのにな。

食べ物を無駄にすると、バチが当たるんですよ。