神殺しのクロノスタシス3

…結果。

「ナジュ先生、ありがとうございました!」

「ご馳走様でした〜」

「美味しかったです!」

通りすがりの生徒達、大絶賛。

僕の株、急上昇。

こっちは大成功だな。

生徒達は、満足そうな顔で調理室を後にした。

で。

調理室に残った僕と、もう一人。

「うぬぬぬ…」

青汁飲まされた後みたいな顔をした、生徒。

すぐりさんである。

「他の誰かに褒められても、あなたが克服出来なきゃ意味ないんですが…」

「…」

「…どうでした?」

これで駄目だったら、もっと他の方法を試さなければならない。

色々考えてあるよ。

四六時中、ナスのキーホルダーをカバンにつけ、ナスの缶バッチを胸につけ。

ナスの形のペンケースと、その中にナスの形の消しゴムを入れ。

寝るときはナスの抱き枕を抱いて、ベッドの上の天井に、巨大なナスのポスターを貼る。

これぞ、強制ナス単純接触効果。

え?むしろそこまでされたら、余計嫌いになるだろうって?

気にしない気にしない。

「…しょ〜…じきに言って良い?」
 
「どうぞ」

むしろ、正直に言ってもらわなきゃ困る。

すると。

「これ全部ナス仕込まれてるんだな〜と思いながら食べたら…吐きそうだった」

現実は非情ですね。

これで「美味しかった!食わず嫌いだったけど、ナスって意外と美味しいんだね!もう克服したよ!」なんて。

そんな一発でハッピーな結末を迎えられるなら、誰だって嫌いな食べ物に苦労してない。

食わず嫌いなら、仕方ないとして。

一回食べて美味しくなかったものは、二回目以降、その食べ物を見る度に頭の中で、

「これ、前食べて美味しくなかった奴だ…」みたいなバイアスがかかる。

だから、味付けがどうこうと言うより、もうその食材が入ってるってだけで。

うげー、って思うものなんだ。これが。

なかなか難しいだろう?
 
でも。

「じゃあ、全力で、これ全部ナスなんて入ってない!って思い込んで食べたら、どうでした?」

「…それは…」 

…それは?
 
「…美味しかったよ。悔しいけど」

よっしゃ。

思わずガッツポーズ。

「何そのガッツポーズ…」

「いや、ようはあなたのナス嫌いが問題なだけであって、僕の料理の腕前は証明されたので」

すぐりさんがナス嫌いなのは、すぐりさんの問題であって。

僕が料理下手だからじゃない。それが証明された。

あーもう僕シェフになろうかな。

「つまり、味は悪くなかったんでしょう?」

「まーね…。美味しかったよ普通に」

「じゃ、明日からはナスがサイズアップしていくので、そのつもりで宜しく」
 
「えぇぇぇ!嘘でしょ」

嘘でしょじゃないでしょ。

「あなた、最終的には、焼きナスと煮浸し食べなきゃならないんでしょ?そのままの形のナスを食べられるようにならなきゃ、意味ないじゃないですか」

「ぐぬぬ…」

「本番」では、今日のコロッケやハンバーグみたいに、姿を隠したり、細かく微塵切りにされたりしてないんだぞ。

そのまんま、丸のままのナスが出てくるのだ。

だったら、それに慣れておかなければ。

めちゃくちゃ嫌そうな顔をしていたすぐりさんだが。

「頑張って下さい。愛する人の笑顔の為に」

僕が、魔法の一言を言うと。

「…分かったよ…。頑張ってみるよー…」

ナス嫌いの少年に、ここまでさせるって。

恋って、やっぱり凄いものですね。無限大のパワーを生み出す源ですよ。