神殺しのクロノスタシス3

「…やっぱり、それしかないと思う?」

ほら、やっぱりすぐりさんも気づいてるじゃないか。

「ないと思いますけど」

クラスメイトに配る…とか、近所の人にお裾分けする…とか。

方法がない訳ではないものの。

ツキナさん、誰かに配るより先に、自分達で料理して食べる気満々なんだろう?

だったら、もう駄目だ。

「大体、熟す時期になるまで黙ってたのが悪いんですよ」

「ぎくっ…」

もっと早くに、カミングアウトしてれば良かったのだ。

何なら、苗を植える頃から。

「実は俺、ナス駄目なんだー」って。さらっと。

そうしたらツキナさんだって、ちゃんと配慮してくれたはずだ。

自分が見栄を張って、虚勢を張って、取り返しがつかなくなったこの時期になるまで、黙ってるから。

ツキナさんはきっと、今か今かとナスの収穫期を待つのに夢中で。
 
その横で、ナス枯れてくれないかな、と顔面蒼白で考えてるすぐりさんがいることなんて、気づいてないだろう。
 
そもそも、基本的に、あのツキナ・クロストレイという女子生徒。
 
言わなきゃ、絶対気づかないからな。

何なら、僕が床でミンチになってても、気にせず「罰掃除行こっ!」とか言ってたくらいだから。

そのノリで、きっと言ってくるよ。

手作りのナス料理持って。

「すぐり君、ナス食べよっ」って。

そのときになって、今更「やっぱり無理です」は、あまりに気の毒だろう。

だったら、さっさとカミングアウトしておくべきだったのだ。

今からでも…いや、もう既に充分遅いけど。

「実は…」って、カミングアウトしても良いと思うが。

少なくとも、収獲するまで黙ってるのは良くないと思うぞ。

こういうのは、後回しにすればするほど、傷が深くなるからな。

人生の教訓だ。

「言えば良いじゃないですか。『ナス駄目なんだ』って」

「えぇ〜…。無理だよ。ツキナ、あんなに楽しみにしてるのに…。そんな水を差すようなこと…」

「…」

何この人。我儘。

「絶対悲しむよ。『そうなんだ…』ってショック受けるよ。そして、一人で食べるには多過ぎるナスを前に、『これ、どうしよっか…』って項垂れるんだよ。そんな姿を見られないよ!」

何この人。面倒くさ。

「知りませんよ。ずっと黙ってるからそんなことになるんでしょ」

「あーもう!どーしたら良いのさ!」

「カミングアウトが嫌なら、克服するしかないですね」

「…」

すぐりさんは、「正気か?」みたいな目でこちらを見た。

それはこっちの台詞ですよ。

「あなたがナスを克服すれば、ツキナさんの笑顔を守れますよ」

「うぐぐ…。やはりそうするしかないのか…。世界は無情だなぁー…」

全くですよ。

「好きな女の子の為なら、どんな努力でもするのが、男ってものじゃないですか」

「…!」

「少なくとも、白馬の王子様になるよりは、ナスを克服する方が、遥かに楽だと思いますが」

すぐりさんは。

覚悟を決めたように、頷いた。

「分かった、分かったよ。俺、挑むよ。ナスに」

「はい。頑張って下さい」

「そこでナジュせんせー、乗りかかった船と思って、手伝って」

…。

…面倒くさ。

しかし。

「…分かりましたよ」

僕も、鬼じゃないからな。

好きな女の子の笑顔を守りたい、その気持ちは、僕もよく分かる。

だったら、協力してあげようじゃないか。

そして、ここに。

すぐりさん、ナス克服作戦という。

恐らく世界で一番下らない、

しかし僕達にとっては、世界で一番大切な計画が、始動した。

…それは良いとして。

「…手伝ってあげるんで、そこにある小テスト、僕の代わりに採点してくれません?」

「え〜?…しっかたないな…模範解答何処だよ」

「そこ。引き出しの中。その間に僕、リリスとイチャついてくるので」

「この自堕落教師」

「僕に頼ったのが間違いでしたね。ナス嫌い生徒」

じゃ、そんな訳なので。

僕、リリスのとこに行ってきまーす。