神殺しのクロノスタシス3

翌朝。

朝食の時間になる、10分前。

僕は、すやすやと眠るユイト君の寝顔を見下ろした。

起床時間を告げるクラシック音楽が流れても、彼は起きなかった。

彼が寝坊助だからじゃない。

僕が昨夜打った、薬のせいだ。

微量のつもりだったのだが、薬物耐性のないユイト君にとっては、少し多かったみたいだ。

彼を遅刻させるのは可哀想なので、起こすことにする。

「起きて」

「むぐっ…!?」

ユイト君の鼻を摘まむと、彼は目を白黒させながら覚醒した。

「れ、令月…?」

「おはよう」

「え、え!?今何時?」

「朝ご飯の時間」

「えぇぇ!」

自分が寝坊したことに気づいたらしい。

ごめんね。それ、僕のせい。

「ね、寝過ごした…!令月も、起こしてくれれば良かったのに」

「だから、今起こしたよ」

「あ、そうか。ありがとう…」

「どういたしまして」

君を寝坊させたのは、僕だけどね。

「やべ、急がないと…!今日一限、イレース先生なんだよ…!もし遅刻したら…」

「あー…」

あの人なら、脳天に雷落とされてもおかしくないね。

ますますごめんね。そうとも知らずに寝坊させて。

「…ん?令月は何でまだここにいるんだ?」

急いで着替えながら、ユイト君が聞いた。

そうだね。

いつもなら、とっくに朝食を終えて、教室に直行してる時間だもんね。

でも、今日は駄目なんだ。

「僕、今日風邪気味」

「えっ」

「だから、僕に近寄らない方が良いよ」

「あ、いや…。大丈夫?」

心配してくれるんだ。

優しいね。

ユイト君に限らず、この学院の生徒達は、皆優しい。

こんな優しい人達を、一人でも殺させる訳にはいかない。

僕なんかの為に。

「熱はないと思うけど、クラスメイトに感染したら悪いし。今日は実技授業もないから、休む」

「そうか…。仕方ないな」

「それで悪いんだけど、三年Bクラスの生徒に、誰でも良いから、『令月は体調悪いから休む』って伝えてくれないかな」

「分かった。伝えておくよ」

「ありがと」

自分も遅刻しそうなのに、頼み事を聞いてくれるんだ。

本当に優しいね。

「それじゃ、ゆっくり休めよ。具合悪くなったら、ちゃんと医務室も行って」

「うん、そうする」

優しい、良い人達だ。

だから…絶対死なせないよ。