神殺しのクロノスタシス3

「そう、俺と君で、一騎討ちをしよう」

「…」

「殺し合いだよ」

そう言われた瞬間、僕は思い出した。

『アメノミコト』に買われて、入れられたあの学校。

毎月行われた、選別試験…。

あれと同じことを、もう一度やれと言うのか?

「俺と君の優劣を、白黒はっきりつけようじゃないか。お互い横槍はなし。本物の一騎討ちだよ」

「どうして…そんなことを…」

折角生き残ったのに。

何でまた、自分の命を脅かすようなことを。

「どうして?それを君が言うの?俺に言わせたいの?」

『八千歳』の顔が歪んだ。

「っ…」

「俺は君が嫌いなんだ。大ッ嫌いなんだよ。心の底から、憎くて憎くて仕方ない。そんな相手を自分の手で殺したいと思うのは、そんなにおかしなこと?」

「…」

…『八千歳』は、僕をずっと憎んでいた。殺したがってた。

そして今、ようやくその機会を得た。

「僕は…もう『アメノミコト』の人間じゃない」

「だから何?嫌とは言わせないよ。いずれにしても、君に拒否権なんてないんだからね」

…拒否権なんてない…?

…!まさか…。

「気づいた?」

「…君は…」

「『八千代』。言ったよね?俺は一人で来たんじゃない。もう一人いる。君が一騎討ちを拒否するなら、誰かに相談したり、横槍を入れてくるようなら…。そのもう一人が、君の大事な『お仲間』を殺すよ」

…そんなにも、あっさりと。

人の命を、一生を奪うことを、あっさりと。

彼らにとって、殺すという言葉は…とても軽い。

かつて、僕にとってそうであったように…。

彼らが殺すと言えば、間違いなく殺す。

「まずはルームメイトから、かな?それと学生寮にいる生徒達を一人ずつ…。10分もあれば、100人は殺してあげられるよ」

「…」

はったりではない。

『終日組』の暗殺者が一人いれば、平気でそれくらい殺せる。

ましてや、生徒達は学生寮という一つの建物の中に、密集しているのだ。

檻に囲まれた羊の群れの中に、凶暴な狼を放り込むようなものだ。

学院長達が気づいて、助けが来るとしても、それまでに何人殺されているか…。

「さぁ、どうする?俺との一騎討ち、受けてくれるよね?」

「…分かった」

本当は、受けたくはなかった。

当たり前だ。

二度と、『アメノミコト』とは関わりたくなかった。

でも、そういう訳にはいかない。

僕が逃げれば、罪のないイーニシュフェルトの生徒達が…。

「あはははは!」

「!?」

突然、『八千歳』は笑った。

馬鹿にしたような笑みだった。

「ごめんごめん。おかしくてね〜。あれだけ殺しておいて、あれだけ大勢、無慈悲に、躊躇なく人を殺しておいて。今度は学友を守る為に、自分の命を懸けられるの?」

「…!それは…」

「たった半年で、君に何があったの?一体どういう心境の変化?クラスメイトなんて何人死んでも、自分には関係ない。平気でそう言える人だったじゃないか、君は」

そうだね。

昔は、そうだった。

「戦いたくないけど、『お仲間』の為には戦わざるを得ない。大変だね…守るべきものがある人は」

「…」

「もう一人が、君の部屋の机の上にメモを置いてる。それに従ってよ。精々…錆び付いた牙を研いでおくことだね」

そう言って、『八千歳』は消えた。