神殺しのクロノスタシス3

「お前がいたから、水色に勝てた。違うか?」

あの繊細な糸による、的確な誘導。

あれがなければ、俺は水色と延々鬼ごっこをさせられていた。

おまけに、誘導した先に用意していたトラップ。

見事だった。子供ながら、大人顔負けの熟練した腕前だった。

しかし、本人は。

あの戦いで、自分がどれほど貢献したかを自覚してないようで。

「いや、でも…あのくらい…」

あのくらい?

「お前の言う、『あのくらい』の加勢がなかったら、俺は今頃、未だに水色と追いかけっこしてるか…。あるいは、あいつの手裏剣の餌食になってたかもな」

正直、あの戦闘で。

あのタイミングで、すぐりが来てくれなかったら。

俺は、水色に負けていたかもしれない。そう思う。

逃げ回る水色に、距離を離されるばかりで、焦りを募らせ、動きが鈍っていただろう。

そして、一度動きが鈍れば、それを見逃してくれる相手ではない。

すかさず、水色の手裏剣が俺の身体を切り裂いていたはずだ。

しかも奴らの使う武器には、漏れなく致死性の毒が塗られている。

冷静に考えたらさ。

あのとき、すぐりが加勢に来てくれてなかったら。

最悪俺、今頃墓の下だったのでは?

それくらい、緊迫した状況だったのだ。

そこを、すぐりが救ってくれた。

生徒に、子供に助けられるなど。

教師として、大人として、恥ずかしい限りだが。

でも、それでも俺は、すぐりに助けられた。

「あの水色に勝てたのは、お前のお陰だ。お前の功績だ。それを誇れよ」

「羽久せんせー…。でも俺は、そのくらいしか出来ない…役立たずで…」

馬鹿。

何度も言ってるだろうに。「そのくらい」のことをしてくれたお陰で、俺は死なずに済んだんだってのに。

どう励ましたら良いものか…。

皆あの戦いで、それぞれ役に立ったのに。

自分だけ、大して役にも立たず、それどころか敵に操られて、味方を傷つけてしまった。

おまけに、あの鬼頭の影武者。

あいつがすぐりを、散々「役立たずの産廃」呼ばわりしたせいで。

完全に、すぐりは自分に自信を失っている。

(物理的な理由で)無言で聞いていたナジュが、ホワイトボードに何かを書き、俺に見せてきた。

『何であんなに気にするんですかね?子供なんだから、全部大人のせいだと思えば良いのに。』

…確かに、俺もそう思うが。

「…思春期なんだよ」

俺はナジュの問いに、そう答えた。

思春期の上に、こいつら元暗殺者組は、子供なのに、早々に無理矢理大人の世界に引き摺り込まれ。

大人の考えを、しかも…汚い大人の考えを、心の髄まで叩き込まれている。

自分の命と尊厳を守りたいなら、役に立て。それが出来ないなら死ね、と。

だからすぐりも…そして令月も。

己の存在理由だの、己の生きる意味だの価値だのに固執し。

取る必要のない責任を取ろうとし、背負う必要のない重荷を背負おうとする。

そういう育てられ方をしたのだから、仕方ない。

今更考え方を変えようとしても、そう簡単に出来ることではない…。

…すると。

「…うん、分かった。そこまで言うなら、君は確かに、役立たずなんだろう」

シルナが、とんでもないことを言い始めた。