神殺しのクロノスタシス3

…どんな顔をして、僕は彼に会えば良いのか。

自分だけ地獄から抜け出して、ここでぬくぬくと守られて。

足を洗って、罪を償った気になって、血に濡れた手で、今更普通の学生生活を送っている僕が。

かつての同僚を…しかも、『八千歳』と相見えるなんて…。

でも…分かっていた。

刺客が来るとしたら、きっと彼なのだろうと…。

こちらから言葉を発することは出来なかった。

きっと詰られるのだろうと思った。罵られるのだろうと。

憎しみに染まった目を向けられるのだろうと。

しかし。

「良かった〜。元気そうで何よりだよ」

「…」

「得体の知れない呪い師共の集団に囚われて、怯えながら暮らしてるんじゃないかって、心配してたんだよ?どうやらそんなことはなさそうだね」

「…」

『八千歳』は、笑顔だった。

彼はいつもそうだった。

『終日組』の中でも、彼は一番よく笑う人だった。

…とはいえ。

『終日組』の中で、僕は彼以外の暗殺者の素性を、全く知らないのだけど…。

「何で何も言わないの?折角の再会なのに。嬉しくないの?」

「…」

「俺は嬉しいよ。だって君が生きてたんだから。殺されたと思ってた。だってあの『八千代』が、任務に失敗したって言うんだから」

「…」

「驚いたよ〜…。任務成功率100%の君が、まさか失敗するなんて。しかも、たかが異国の呪い師風情に負けたって。信じられなかったね〜。一体どうしてそんなことになったの?」

…それは。

思いの外…その呪い師に…。

人の心を読む…厄介な魔法の持ち主がいたせいで。

「それ以上に驚いたのは、君が今生きてることだね。無様にも任務に失敗したのに、潔く自決するでも、尻尾巻いて帰ってくるでもなく、まさか敵に寝返る?情に絆されて、ぬくぬくと学生生活を送ってる?良かったね〜『八千代』。そっち側の世界は、随分と楽しいんだろうね」

「…それは…」

「良いんだよ、責めてなんかない。さっきも言っただろう?俺は嬉しいんだ、君が生きててくれて。心の底から嬉しいんだ…」

『八千歳』は、笑顔でそう言った。

…凍りつくような笑顔で。





「お陰でようやく、君を殺す機会に恵まれたんだから」

「っ!!」

『八千歳』の手に糸が光るのが見えて、僕は反射的に身を逸らした。