神殺しのクロノスタシス3

─────…暗殺者の魔の手が、すぐ傍まで近づいていることも知らず。

その日僕は、いつも通り放課後学習会を終えて、学生寮の自分の部屋に戻った。

すると。

「あ、お帰り令月」

「ただいま…」

ルームメイトのユイト・ランドルフ君が、僕に声をかけた。

「今日も熱心に、放課後勉強か?偉いなぁ」

「ありがとう」

褒めて頂いたところ、恐縮だが。

僕が放課後に勉強会を開いてもらってるのは、僕が今まで、ろくな教育を受けてこなかったから。

その皺寄せが、今更になって己の身に降りかかってきたというだけで。

僕が偉い訳じゃない。

「あ、そうだ。さっき寮長が来て、令月宛に手紙持ってきてたよ」

「え?」

イーニシュフェルト魔導学院の生徒は、全員学生寮に入っている。

故に、郵便物は全て、学生寮宛に送られ。

そこで寮長が仕分けをして、生徒個々人に届けられる。

ユイト君も、よく家族から手紙をもらっている。

しかし、僕に届けられる手紙なんて、これまで一通もなかった。

当たり前だ。

だって、僕に手紙を送る人物なんて、この世の何処にもいないのだから。

この国に僕の家族はなく、学院を一歩出れば、そこに僕のことを知ってる人間はいない。

精々、聖魔騎士団魔導部隊の人間に、顔を覚えられているくらいだ。

何せこの国に来て、まだ一年もたっておらず。

おまけに、学院に編入学して以来、学院の敷地から出たことさえないほどなのだから。

別に、禁じられていた訳ではない。

ただ僕が、外に出なかったというだけで。

それはともかく。

「僕に手紙…?」

「令月いなかったから、俺が代わりに預かっておいた。はい、これ」

ユイト君が、僕に封筒を差し出した。

何の変哲もない、ただの封筒。

学院の住所と、「黒月令月様」とだけ書いてある。

差出人の名前が書いてない。

それだけじゃない。

ユイト君は、気づかなかったようだが。

この封筒、切手が貼ってない。

つまり、郵便局を通さず、直接学生寮のポストに投函されたのだ。

だから差出人は、学院内の誰か、ってことになる。

一体この学院の何処の誰が、僕に手紙を?

…まずは、封を開けてみなければ始まらないか。

僕は、封筒の中身を開けた。

便箋は、入っていなかった。

代わりに、僕を一瞬で戦慄させるものが入っていた。

「…!!」

…これは…。