神殺しのクロノスタシス3

「…?良いって?」

「学院長が太っても良いです。いくらお菓子をくれる優しい学院長でも、デブは所詮デブ。生徒からの人気は爆下がり間違いなしですからね〜」

「ふぎゅっ!!」

イレースより、更に痛いところを突いてくるナジュである。

こいつもこいつで、容赦がない。

「ただでさえ、あなたルックスでは学院内顔面偏差値、平均以下ですしね〜」

「ひぐっ!」

「いくら優しくても、腰回りに脂肪がつきまくり、ふぅふぅ言いながら汗垂れ流して近寄ってきたら、気持ち悪い生き物以外の何者でもないですからね!」

良い笑顔で、シルナを追い詰めていく。

想像してみる。デブデブに太ったシルナが、ふぅふぅ言いながら近寄ってきたら。

…成程。ぶん殴りたくなるな。

正論だ。

「ダイエットなんてしなくて良いですよ。このままあなたがブクブク太ってくれたら、更に僕の生徒からの支持率が上昇しますからね!ふふふ」

ただでさえ、その容姿端麗なルックスの為に、(主に女子生徒から)圧倒的人気を誇り、王者の余裕を見せるナジュ。

シルナがこのまま太りまくって、醜い姿になったら。

ただでさえシルナは、ナジュに比べてルックスで劣りまくっているのに。
 
「『いくら優しくても、デブの学院長先生は嫌だよねー。なんか臭そうだし。やっぱりナジュ先生の方が良いや〜』って言う生徒が増えますね。いや〜人気教師は困りますね〜」

散々、煽りに煽りまくって。

「じゃ、人気者の僕は生徒の稽古を見に行って、更に株を上げてくるので。あなた精々ここで、贅肉を肥やすのに時間を費やしてください」

颯爽と、学院長室から出ていった。

稽古場に行ったと思われる。

…で、残された俺とシルナと。

もう一人の、令月は。

「…ガリガリより、ブクブクの方が良いんじゃない?」

物凄く、苦しいフォローを入れてくれた。

令月の精一杯の優しさである。

「う…う…」

シルナの目に、ぶわっ、と涙が浮かんだ。

「うわぁぁぁぁん!デブ学院長は嫌だよぉぉぉぉ!羽久ぇぇぇぇ!」

「…何で俺に泣きつくんだよ…」

イレースには小馬鹿にされ、ナジュにも小馬鹿にされ、令月からは悲しいフォローを入れられ。

とうとう、シルナの心の堤防が決壊した。

なんか可哀想みたいな雰囲気出してるが。

あくまで、自業自得だからな。

「決めた!決めたよ羽久!」

「何を…?」

諦めて、デブ学院長を受け入れるのか?

それとも…。

「私、今日からダイエットする!三時間坊主とか言わせないから!」

涙目の決意表明。

そうか。

デブ学院長は、やっぱり嫌か。

「スマートな学院長になって、イレースちゃんもナジュ君も、見返してやるんだから!シルナだってやれば出来るんだってこと、見せつけてやるんだ!」

「あ、そう…。まぁ、勝手にがんば、」

「羽久も協力してくれるよね!」

…は?

何で俺が?

「羽久だって、私がデブ学院長呼ばわりされるのは、聞くに耐えないでしょ?」

いや、別にどうでも良いけど。

「だったら羽久も協力してね!やっぱり協力者がいた方が良いよね!」

ちょ、何を勝手に決めてるんだ。

俺は別に、シルナがデブ呼ばわりされようが、どうでも良いんだけど?

何で俺まで巻き込まれるの?おかしくね?

「ちょ、令月一緒に止め、」

令月に助けを求めようと、さっきまで令月が座っていたソファに目をやると。

何故か奴は、いなくなっていた。

危機を察知したのか、いつの間にか緊急脱出しており。

窓のカーテンが、ひらひらとはためいていた。

…あの野郎…!

逃げ足の速さが、暗殺者のそれ。

俺を人身御供にして、自分だけ逃げやがったな?

全くすばしっこい子供だ。

「ダイエットだ!私ダイエットする!頑張るからね!」

「あー…。はいはい…」

…もう、勝手にしてくれ。

イレースの一言で、こんなことに。

これなら、黙っててもらえば良かった。

俺は、内心盛大な溜息をついた。