神殺しのクロノスタシス3

令月じゃないが。

俺も、窓から飛び降りる特技があればなぁ。

今すぐ、この修羅場から逃げ出すんだが。

イレースは、笑顔だった。

見たことがないくらい…真っ黒な笑顔。

口調は優しいのに、この顔。

人を殺せる顔がこの世にあるとしたら、この顔だろうな。

「認知症の症状として、お金の管理が出来なくなるというものは、珍しくないそうですから。大丈夫です。学院長もボケてしまったんですよね。仕方ないですよね」

「…」

イレース、最高に良い笑顔。

シルナ、顔面蒼白でガクブル。

「学院長はボケてしまったんですね。でなければ有り得ませんよね?…業者に割引してもらった魔導人形の差額分を、菓子代にすり替えるなんて」

「ひっ…!」

…バレてる。

シルナの工作、あっさりバレてる。

「贔屓にしている業者からの請求が、微妙にいつもの額と変わっているから、気になって業者に問い合わせてみたら…。新型の魔導人形を、定価より割安で仕入れさせてもらったそうですね」

…そうか。

業者に直接聞いたのか。

それは…バレるな。

「それじゃあ、この請求書はおかしいですよね?割安で仕入れたはずなのに、定価価格と同等になってる。私、苦労して調べたんですよ?学院に届いている配送伝票を、一枚一枚確認して…」

マジ?

あれ、全部控えてるの?

「そうしたら見つかりましたよ。いつぞや聞いた忌々しい菓子屋の名前…確か、『ヘンゼルとグレーテル』でしたっけ?…とってもメルヘンで、素敵な名前ですね」

素敵ですね、って顔してないよ、君。

今すぐ人を殺しそうな顔だよ。

「で、その菓子屋にも問い合わせたんです。そうしたら見つかりました。注文履歴。確か…アルファフォーレスでしたね?それをダース単位でご注文されたとか」

…終わったな。

全ては暴かれた。

シルナ、やっぱり悪は裁かれる運命なんだよ。

「認知症でもなければ、有り得ませんものね、こんな愚かな真似をするなんて」

「い…い…イレースちゃん…」 

「良いんですよ。認知症なら仕方ないです。認知症患者を責めるのは筋違いというもの」
 
「あ、あの、あのね、イレースちゃん落ち着、」

「そんな訳で私、探しておきましたよ」

「え?」

イレースは、テーブルの上に、数冊のパンフレットを置いた。

…どれも、老人介護施設のパンフレットだった。

「認知症患者を学院に置いておく訳にはいきませんからね。また同じことをされちゃ困りますから。ボケ老人は、ボケ老人の巣に帰ってもらわなければ。さぁ、好きなところを選んでください」

「…ふぇ」

シルナの目に、ぶわっ、と涙が浮かんだ。  

請求書偽造の罪は、重かった。

本人や、俺が思ってるよりずっと、重かった。

「い、イレースちゃん、許し…」

「とっとと選べボケ老人」

無慈悲。
 
「さもなくば…焼け焦げろ」

イレースの杖から、莫大な威力の雷が迸った。

…あぁ。