神殺しのクロノスタシス3

シルナのアホっぷりは、まぁ放っとくとして。

「ま、まぁまぁ、思い出すか思い出さないかは置いといて、折角用意したんだから食べようよ〜」

との、シルナの言葉により。

俺達は席に着き、シルナの用意した紅茶菓子ラインナップを口にしていた。

部屋の中、紅茶くせぇ…。

決して悪い匂いではないのだが、ずっとここにいたら、鼻が紅茶色に染まりそう。

「前もねー、こうして一緒におやつ食べたんだよ」

隙あらば、ではないが。

ナジュに、思い出話を聞かせるシルナ。

確かに、効果的かもしれない。

ナジュ自身、この場所に懐かしさを感じると言ってたし。

ここでこうして、昔みたいに菓子食べてたら。

何か思い出すこともあるかも。

「ナジュ君ってば、いっつも私の隠したお菓子を何処からか探し出して、摘み食いするんだから…」

「そうなんですか?」

「そうだよ。だから私は、こまめに隠し場所を変えて…。昨日も新しい隠し場所に隠し直したんだ」

何をやってんだ、お前は。

するとナジュは、部屋の中をぐるりと見渡し。

「…そこの、ソファの下の隙間」

「ふぁっ!?」

「何か隠してますよね。チョコレートか何か…」

「嘘でしょ!?ナジュ君、君本当に記憶なくしてる!?何でバレるの!?」

…隠し場所が、安易だからじゃないか?

ソファの下に食べ物を置くな。

「ぐぬぬ…。記憶がなくても、やっぱりナジュ君はナジュ君なんだね。嬉しいやら悲しいやら…」

そこは喜んどけよ。

「…あの」

戸惑った顔のナジュが、口を開いた。

「どうかした?ナジュ君」

「僕がここの…イーニシュフェルト魔導学院の教師をやってたって聞かされて…」

「うん」

「凄く驚いて…。そんなはずないと思ったんですけど、でもあなた達の心を覗いても、校舎内の色んな場所を見ても、あなた達を見ても、何処か懐かしくて…。自分の居場所みたいな気がして…」

「君の居場所だからね、実際」

確かに。

「…でも、きっと…最初からそうだった訳じゃないですよね?」

「…」

「何らかの経緯があって、僕は…ここに流れ着いたんですよね?」

…流れ着いた…か。

シルナじゃないが。

本当に記憶喪失なのかと疑いたくなるほど、正確な例えだな。

その通りだ。

ナジュは、俺やシルナみたいに、元からイーニシュフェルト魔導学院にいた訳じゃない。

長い長い放浪の果てに、ここに流れ着いたのだ。

「さっき、そこのイレースさん…が、僕は生徒としてここにやって来た…みたいなこと言ってて」

「…言いましたね」

「僕は何がしたかったんですか?生徒として入学して、何で教師をやってるんですか?そもそも僕は学校に通う必要はなかったはず。それなのにどうして、生徒として入学したんですか?」

「…」

…やっぱり。

そこを話さないことには、何も思い出せないか。

出来れば、話したくなかったんだけどな。

「…シルナ」

「…そうだね」

でも、話さなければいけない。

清濁を合わせ呑み。

ナジュの過去の、暗い部分も明るい部分も、全て合わせて。

ルーチェス・ナジュ・アンブローシアという一人の人間が、ここにいるのだから。

「ちょっと…長い話になるけど、聞いてね」

「…はい」

意識を取り戻したばかりのナジュに、辛い思いをさせたくはない。

それは俺達の本意ではない。

しかし、そうしなければ思い出せないのなら。

話すしかないだろう。

ナジュが、どうしてイーニシュフェルト魔導学院にやって来たのか、その経緯を。