神殺しのクロノスタシス3

イレースと共に、校舎内を回った後。

お次は、学院長室にやって来た。

そこには、二番手のシルナが、準備万端で待ち構えていた。
 
「やぁナジュ君!いらっしゃい!」

「…あ」

ナジュが、何かを思いついた。

「どうした?思い出したか」

「思い出したって言うか…この場所、夢で見ました」

…夢?

「夢を見てたのか?」

「寝てる間、ずっと流れてたんです。色んな景色が、スライドショーみたいに…。その中に、頻繁にこの部屋が出てきました。凄く…懐かしい気がします」

成程。

クュルナの治療、あれは間違ってなかったんだ。

ちゃんとナジュに、届いてたんだな。

「覚えてないですけど…。僕、きっとここで長い時間を過ごしたんですね」

「…よく言った。その通りだ」

放課後になったら、溜まり場みたいに集まってたもんな。

「…それで」

ナジュは、顔をしかめて言った。

「この部屋は…前から、こんなに紅茶臭かったんですか…?」

「…」

自分は、昔からこんな、紅茶臭漂う部屋に入り浸っていたのかと。

不安そうな表情で。

「…安心しろ。今日だけだ」

何なら、俺も初めてだから。安心しろ。

「…お前は何をやってるんだ、シルナ」

「紅茶作戦その2!」

めちゃくちゃ良い笑顔で言われた。

イレースの、この白い目。

心底馬鹿だと思ってるよ。

「こ、紅茶作戦…?僕は何ですか?この人に何か恨みでも買ってるんですか…?」

記憶を取り戻させるどころか。

むしろ困惑させてるんだが?

「大丈夫だ安心しろ。こいつが底知らずの馬鹿だってだけの話で、お前は何も恨みを買ってない」

お前は何も悪くない。

悪いのは、この発想が腐りきったシルナだ。

「一応聞いてやる。シルナ、お前は何がしたいんだ」

目を覚ましたばかりのナジュを、紅茶漬けにでもしたいのか?

この、部屋に充満した紅茶臭は何だ。

テーブルの上には、湯気を立てる紅茶のティーカップ。

皿の上には、紅茶クッキー、紅茶のシフォンケーキ、紅茶マフィン、紅茶のスポンジケーキ、などなど。

紅茶臭漂う、紅茶味の菓子が山盛りになっていた。

学院長室、紅茶専門店始めました。

「ほら、ナジュ君、紅茶クッキーの匂いで目を覚ましたでしょ?」

「…」

「だから、紅茶の匂いで記憶も戻るかなって!」

…超良い笑顔で。

超馬鹿な理論を力説された。 

…まず、大前提として。

「…ナジュは別に、紅茶クッキーで目覚めた訳じゃないだろ」

「え、そうなの?」

そうなの?じゃないよ。

見てみろ、このナジュの顔。

この人大丈夫かな…って心配してるよ。

何なら、俺も心配だよ。
 
このシルナ、大丈夫?