イレースは、校舎内のあらゆる場所を案内した。
「ここは稽古場。あなたは実技授業担当が多かったですから、ここにいる時間は長かったはずですが」
「…」
ナジュが一日の授業時間の大半を過ごしていた、稽古場。
何なら放課後もここに入り浸って、生徒達に実技を教えてたっけ。
「お前は読心魔法で生徒の心を読みながら実技を教えるから、『ナジュ先生の実技授業は分かりやすい』って、評判だったんだぞ」
と、教えてやる。
その評判たるや、シルナが嫉妬のあまり血の涙を流したほどだ。
しかし。
「…」
ナジュは困ったような、困惑した顔のまま。
…駄目か。
「では次です」
稽古場が駄目ならと、次にイレースが連れて行ったのは、教室。
例の、四年Aクラスの教室。
…ナジュが、読心魔法を暴走せて倒れた教室だ。
「ここが、あなたが座学を教えていた教室です。あなたが倒れたのも、この教室なんですよ」
「…」
まぁ、教室と言っても。
生徒がいないから、随分殺風景に見えるんだけどな。
やっぱり、ナジュは何も思い出せないようで。
「…なら次です」
件の教室が駄目ならと、次にイレースが連れて行ったのは、職員室。
生徒の成績をつけたり、試験問題を作ったりなどの作業を行っていたのは、この部屋だ。
そして、イレースは職員室の中の、ナジュの机の前に連れて行った。
「ここが、あなたの席なんですよ。ここで生徒の成績をつけてたんです。…ほら」
イレースは、ナジュの机に置いてあったファイルを手に取り。
彼が担当していた、風魔法の授業の資料を見せた。
「これも、あなたが作ったんですよ。あなたの字でしょう?」
「…そうですね」
自分の書いた字は、分かるらしい。
良かった。
一応ナジュは、自分の名前や使える魔法、一般常識は覚えてるからな。
名前も分からない、言葉も字も分からないとなると、もっと大変なことになるところだった。
「何か思い出しませんか?」
「…んー…」
…駄目みたいだ。
「…まぁ、仕方ないですね。あなた、職員室にいることはあまりありませんでしたし。座学の授業も面倒臭がってばかりでしたし」
おい。それを言うな。
事実だけれども。
いや、むしろ言った方が良いのか?リアルな情報を伝えた方が、ナジュ的には思い出しやすいか?
「…つまり僕って、教師だったけど、あまり良い教師じゃなかったってことですか?」
「そうですね」
…イレース。
お前、身も蓋もなければ、血も涙もない女だな。
「成程…。僕が教師をやってたなんておかしいと思ったら、やっぱりまともな教師ではなかったんですね…」
「えぇ。先程も言った通り、生徒の風紀を乱す、ろくでもない教師でした」
「…」
「…でも、私達にも、生徒達にも、必要な存在でした」
「…」
ナジュがどんな教師だったか、なんてどうでも良い。
「…医務室にさ、紙で出来た青い薔薇の花束、あったろ?」
俺は、ナジュにそう語りかけた。
「はい、ありましたね」
「あれ、生徒達からの贈り物なんだぞ」
「え…」
驚いたか?
「言ったろ?生徒に人気の教師だったって。だからお前がいなくなって、生徒達が自発的に千羽鶴、ならぬ千輪薔薇を折ってくれたんだ。何なら千輪越えてるらしいぞ。折る人が多過ぎて」
「…」
ぽかんとしてる。
全く、教師としては羨ましい話だ。
倒れたのが俺だったら、果たして生徒達は、ナジュにしたように、俺にも千輪薔薇、折ってくれるだろうか?
自信なくて泣けてくるな。
「バレンタインも、87個だっけ?チョコレートもらったって自慢してたじゃん」
「87…!?それは嘘でしょう」
「嘘か本当か、俺の心を覗いたら分かるんじゃないのか?」
「…」
…分かったようだな。
本当なんだよ。
俺でさえ、あのとき死ぬほどビビったんだからな。
驚いてもらわなきゃ困る。
「それだけ生徒に人気な教師だったんですよ、あなたは」
「…そうなんですか…」
お前が忘れても、生徒達はお前を忘れてない。
早く、またお前の授業を受けたいって思ってるんだよ。
「ここは稽古場。あなたは実技授業担当が多かったですから、ここにいる時間は長かったはずですが」
「…」
ナジュが一日の授業時間の大半を過ごしていた、稽古場。
何なら放課後もここに入り浸って、生徒達に実技を教えてたっけ。
「お前は読心魔法で生徒の心を読みながら実技を教えるから、『ナジュ先生の実技授業は分かりやすい』って、評判だったんだぞ」
と、教えてやる。
その評判たるや、シルナが嫉妬のあまり血の涙を流したほどだ。
しかし。
「…」
ナジュは困ったような、困惑した顔のまま。
…駄目か。
「では次です」
稽古場が駄目ならと、次にイレースが連れて行ったのは、教室。
例の、四年Aクラスの教室。
…ナジュが、読心魔法を暴走せて倒れた教室だ。
「ここが、あなたが座学を教えていた教室です。あなたが倒れたのも、この教室なんですよ」
「…」
まぁ、教室と言っても。
生徒がいないから、随分殺風景に見えるんだけどな。
やっぱり、ナジュは何も思い出せないようで。
「…なら次です」
件の教室が駄目ならと、次にイレースが連れて行ったのは、職員室。
生徒の成績をつけたり、試験問題を作ったりなどの作業を行っていたのは、この部屋だ。
そして、イレースは職員室の中の、ナジュの机の前に連れて行った。
「ここが、あなたの席なんですよ。ここで生徒の成績をつけてたんです。…ほら」
イレースは、ナジュの机に置いてあったファイルを手に取り。
彼が担当していた、風魔法の授業の資料を見せた。
「これも、あなたが作ったんですよ。あなたの字でしょう?」
「…そうですね」
自分の書いた字は、分かるらしい。
良かった。
一応ナジュは、自分の名前や使える魔法、一般常識は覚えてるからな。
名前も分からない、言葉も字も分からないとなると、もっと大変なことになるところだった。
「何か思い出しませんか?」
「…んー…」
…駄目みたいだ。
「…まぁ、仕方ないですね。あなた、職員室にいることはあまりありませんでしたし。座学の授業も面倒臭がってばかりでしたし」
おい。それを言うな。
事実だけれども。
いや、むしろ言った方が良いのか?リアルな情報を伝えた方が、ナジュ的には思い出しやすいか?
「…つまり僕って、教師だったけど、あまり良い教師じゃなかったってことですか?」
「そうですね」
…イレース。
お前、身も蓋もなければ、血も涙もない女だな。
「成程…。僕が教師をやってたなんておかしいと思ったら、やっぱりまともな教師ではなかったんですね…」
「えぇ。先程も言った通り、生徒の風紀を乱す、ろくでもない教師でした」
「…」
「…でも、私達にも、生徒達にも、必要な存在でした」
「…」
ナジュがどんな教師だったか、なんてどうでも良い。
「…医務室にさ、紙で出来た青い薔薇の花束、あったろ?」
俺は、ナジュにそう語りかけた。
「はい、ありましたね」
「あれ、生徒達からの贈り物なんだぞ」
「え…」
驚いたか?
「言ったろ?生徒に人気の教師だったって。だからお前がいなくなって、生徒達が自発的に千羽鶴、ならぬ千輪薔薇を折ってくれたんだ。何なら千輪越えてるらしいぞ。折る人が多過ぎて」
「…」
ぽかんとしてる。
全く、教師としては羨ましい話だ。
倒れたのが俺だったら、果たして生徒達は、ナジュにしたように、俺にも千輪薔薇、折ってくれるだろうか?
自信なくて泣けてくるな。
「バレンタインも、87個だっけ?チョコレートもらったって自慢してたじゃん」
「87…!?それは嘘でしょう」
「嘘か本当か、俺の心を覗いたら分かるんじゃないのか?」
「…」
…分かったようだな。
本当なんだよ。
俺でさえ、あのとき死ぬほどビビったんだからな。
驚いてもらわなきゃ困る。
「それだけ生徒に人気な教師だったんですよ、あなたは」
「…そうなんですか…」
お前が忘れても、生徒達はお前を忘れてない。
早く、またお前の授業を受けたいって思ってるんだよ。


