神殺しのクロノスタシス3

数日後。

ナジュの体力が回復してきた頃。

ナジュの記憶取り戻し作戦が始まった。

まずトップバッターは、イレースである。

まだ長時間歩けないナジュを車椅子に乗せ、校内中を案内した。
 
生徒と鉢合わせしたら困るので、あくまで夜、生徒が学生寮に帰ってから、だが。
 
ナジュの帰還を生徒に報告するのは、あくまでナジュが記憶を取り戻してからだ。

「…えっと」

「さぁ、ちゃっちゃと校内を案内しますよ。元職場を見て回れば、何か思い出すこともあるでしょう」

相変わらず、有無を言わせないイレースである。

「あ、ちなみに私の名前はイレース。イレース・クローリアです。こちらは羽久・グラスフィア。いずれもあなたの同僚です」

俺はイレースの補助として、校内散策に同行することになっている。

宜しく。

あわよくば、一緒にいれば、俺のことも思い出してくれないかなって。

「同僚…」

「そう。ここはイーニシュフェルト魔導学院で、私と、ここにいる羽久さんはこの学院の教師です」
 
「…ってことは、僕も教師だったんですか?」

「そうですよ」

「…」

めちゃくちゃ意外そうな顔をしていらっしゃる。

「まさか自分が教師をやっていたとは思いませんでしたか?」

「はい…」

「大丈夫です。私も最初に会ったとき、まさかあなたが教師になるとは思ってませんでしたから」

おい。

酷い言い様だな。

「全く、あなたは酷い教師でしたよ」

更に、イレースの毒舌が爆発する。

「初めは生徒として入学してきたかと思えば、散々学院内と、私の完璧な授業計画の邪魔をし、挙げ句平気な顔をして帰ってきて、今度は教師になるんで宜しく〜、って言って入ってきたんですから」

い、いやそれはまぁ。

そうなんだけど。
 
言い方、言い方ってものがな?イレース。言い方。

「おまけに教師になってからというもの、その無駄に端正な顔立ちと、忌々しい読心魔法を利用して生徒達を惑わせ、学院内の風紀を乱す、それはそれはもうろくでもない教師でした」

「…そうだったんですね…」

おい、やめろ。

むしろ思い出したくない方向に持っていってないか?

「それであなた、読心魔法は使えるんですか?それは覚えてるんですか」

「あ、はい…一応…」
 
「なら、私が嘘をついている訳じゃないことはお分かりですね」
 
…使える魔法は、変わってないってことか。

例の…複数人同時読心ってのも可能なのかは、知らないが…。  

ひとまずは、学院内を見て回ることにしよう。

「で、何処まで話しましたっけ」

「僕がろくでもない教師だったってところまで…」

「あぁそうでした。えぇ、ろくでもない教師でしたよあなたは」

やめろって。可哀想に。

目を覚ました途端、覚えてない人から、「お前ろくでもない奴だったよ」と言われるなんて。
 
ショックだろ。

しかし。

「それでも、私や他の教師や生徒達にとっては、必要な存在なんです。だから、早いところ記憶を取り戻してもらわないと困ります」

「…」
 
「無駄に人気者の教師でしたからね、あなたは。生徒達も、あなたが戻ってくるのを今か今かと待ってるんですよ」

…その通りだ。
 
生徒達も、俺達もな。