神殺しのクロノスタシス3

「…こうなるんじゃないかって可能性を、考えなかった訳じゃないんだ」

…医務室を出て。  

目覚めたばかりのナジュを、クュルナに任せ。

俺達は、学院長室に集まっていた。  

折角、ナジュが目を覚ましたのだ。

本来なら、俺達は拍手喝采で喜んでいなきゃならない。  

それなのに。

俺達は、喜びとはかけ離れたところにいた。

確かに、ナジュに戻ってきて欲しかった。
 
だから、ようやく意識を取り戻した彼に、俺達は喜ぶべきなのだろう。  

でも。

こんな形で、戻ってきて欲しかった訳じゃない…。  

贅沢な悩みだってことは分かってる。

意識を取り戻したんだから、それで良いじゃないかとも思う。

それだけで充分じゃないか、と。

だけど、でも…。

こんな…こんな残酷な形で…。

そこに天音が、ポツリと呟いた。

「元々彼は、脳に深刻なダメージを負って意識を失った。だから…もし目を覚ましたとしても、何らかの後遺症が残っているんじゃないかって…。考えなかった訳じゃない」

「…」

「あれ以上皆を不安にさせたくなかったから、言わなかったけど…」

「…そうか」
 
天音は悪くない。  

俺達の考えが、甘かったのだ。
 
意識さえ取り戻せば、もとのナジュが帰ってくると、勝手に信じ込んでいた。

キャパオーバーでパンクした彼の脳が、深刻なダメージを負っていることは分かってたのに。  

確かに俺達は、ナジュに帰ってきて欲しかった。
 
でも俺達が求めていたのは、俺達の知る、俺達の記憶にあるナジュだった。

俺達のことを忘れてしまった、空っぽのナジュじゃない…。

「…私達の取れる選択肢は、二つある」

と、シルナが言った。  

「選択肢…?」

「そう。一つは…諦めて、新しいナジュ君と、新しく絆を育むこと」

…そうか。

そうだよな。

あいつが、俺達のこと忘れてしまったんだったら。

もう一回、最初からやり直せば良い。  

今までのことを忘れてしまったから、何だ。

これからまた、一からやり直せば良い。

ナジュはナジュなんだから。

これから何年でもかけて、またあいつと仲間になれば良い。

それが正しいのかもしれない。

目を覚ましてくれたのだから、それだけで満足して、また仲良くなれば良い…。  

「…じゃあ、もう一つの選択肢は何?」

令月が尋ねた。
 
「もう一つは…」

もう一つの選択肢は。

ナジュの記憶がないと分かってから、誰もが望んだことだ。  

「…思い出してもらう。私達でまた、ありとあらゆる手段を考えて…。ナジュ君に、私達のことを思い出してもらおう」

…。

「…皆、どっちが良い?どちらの選択肢を選ぶ?」

…馬鹿だな。  

「分かりきったことを、いちいち聞くなよ」

ナジュが目を覚ますまで、ありとあらゆる手段を尽くして、頑張ってきたのだ。

何で。
 
何で今更、彼の記憶を取り戻す為に、ありとあらゆる努力をすることを躊躇うだろうか。   

これが、この場にいる全員の総意だった。