神殺しのクロノスタシス3

「…よく来てくれたね、二人共」

「いえ…」

シルナは、二人の来客の前にティーカップを置きながら言った。

「シュニィちゃんも。大丈夫?こんな時間に。アトラス君心配してるよ」
 
「大丈夫です…。子供達もあの人に任せてきましたから」

それはそれは。

シュニィから子供達の世話を頼まれたとなれば、あの男のこと。

それはもう過保護なまでに、ちゃんと面倒見てることだろう。

「…それに」

シュニィは、暗い顔で言った。

「この非常時に…私達も無視している訳にはいきませんから」

「…」

非常時…ね。
 
「…シュニィちゃん。ナジュ君は聖魔騎士団の人間じゃない。あくまでこれは、イーニシュフェルト魔導学院の…」

「水臭いことを言わないでください、学院長先生」

シルナの言葉を遮るように、シュニィが言った。

確かに、これは…ナジュの問題は、聖魔騎士団には関係ない。  

ナジュは、イーニシュフェルト魔導学院の教師であって、聖魔騎士団の人間ではないからだ。

しかし…。

「聖魔騎士団に問題が起きたときも、学院長先生達はいつも協力してくださってるじゃありませんか。たまにはこちらもお手伝いさせてくださいよ」

「シュニィちゃん…」

「ナジュさんとは、『アメノミコト』襲撃の際にも共闘した仲。私達にとっては、仲間も同然です」

…シュニィは、それで良いかもしれないが。

「…クュルナは、良いのか?」

俺は、クュルナにそう尋ねた。
 
「え?」

「ナジュは、『禁忌の黒魔導書』の封印を解いた張本人だ。クュルナは…」

クュルナにとっては…因縁浅からぬ間柄、ではないが…。

別にナジュなんて、どうなったって構わないと思っていてもおかしくない。

おまけに、『カタストロフィ』の一件では、ナジュと直接戦った身だ。

そんな相手を、助けたいと思うだろうか?

しかし。

「過去のことです。それに…禁書に手を染めたのは、他でもないこの私。彼は関係ありません」

クュルナは、きっぱりそう言ってみせた。

その目に、迷いはなかった。

「それよりも、大恩あるあなた方に、少しでも恩返しすることの方が、私にとっては遥かに大切です」

「…そうか。ありがとう」

だってさ、ナジュ。  

良かったな。お前のことを助けようとしてる人は、こんなに多いんだぞ。

「…正直、聖魔騎士団に手伝ってもらえると、私達としては助かるかな」

シルナは、強がることなく言った。

それだけ、俺達の手には負えない事態になっているということだ。

…まぁ、そうだよな。

現状俺達に出来るのは、ナジュが目を覚ますよう、祈ることだけなんだから。

「…分かりました。では、単刀直入に言います」

シュニィは、ビジネスモードの顔になって、こう言った。

「ナジュさんの為に、聖魔騎士団の方で特別に医療チームを結成して、学院に派遣しようと思っています」

「…!?」

これには、俺もシルナも、驚きを隠せなかった。
 
…何だと?

「回復魔法専門の魔導師は勿論、各種特殊な魔法の使い手を混成したチームを結成し、様々なアプローチを試してみようと思っています。何せ前例のないことなので、試せることは何でも試した方が良いと…」

「ちょ、ちょっと待ってシュニィちゃん」

さくさく話を進めようとするシュニィを、慌ててシルナが止めた。
 
シルナが止めてなかったら、俺が止めていたことだろう。