そして。
ナジュのことを心配している人間は、他にもいる。
生徒達から紙の花束を受け取り。
下校時刻が迫ってきた頃。
また一人、生徒が学院長室を訪ねてきた。
「…学院長先生、グラスフィア先生」
「…ユイト君…」
ユイト・ランドルフ。
現在、学生寮で令月のルームメイトとなっている、二年生の生徒だ。
そして去年、生徒としてイーニシュフェルト魔導学院に入学してきたナジュの、当時のルームメイトだった…。
「どうしたの、ユイト君…。もう下校時刻だよ」
シルナが、優しい声で言った。
しかし。
「…ナジュ…先生のこと」
彼が気にしているのは、やはり…ナジュのことだった。
そうだよな。
去年、あんなことがあったばかりで…。
「令月は、何も言わないけど…多分…ナジュ先生は、病気じゃないんですよね…?」
「…どうして、そう思う?」
「…短い付き合いだったけど…。何となく、彼の性分は分かってるから…」
…そうか。
「令月も普通じゃない感じで…。不気味なお面を二回も…造ってたりしてたし」
…。
…あいつ、あれ、ユイトの見てる前で造ったのか。
ユイトもビビっただろうなぁ。
ルームメイトが、いきなりあんな不気味な面を造り出して…。
今度からそういうことは、ルームメイトの見てないところでやれと、今度令月に言っとくよ。
「彼のことだから、きっと…。また、一人で何かを隠して…一人で難しいことを背負い込んで…。それで、今…こうなってるんじゃないかって…」
「…」
「…俺の、思い過ごしですか…?」
…そうだな。
お前の思い過ごしだったら…どんなに良かったか。
ただ病気で寝込んでいるだけなら…どれだけマシだったか…。
「…シルナ」
俺は、シルナに目配せした。
生徒に余計な情報を与えて、余計な心配をさせるなど、シルナの最も嫌うことだろう。
それは俺も同じだ。
でも。
彼には、ルーチェス・ナジュ・アンブローシアという人間を知る彼には。
知る権利がある。
「…そうだね。多分…君の想像通りだね」
シルナも、諦めたように言った。
「その話、他の…クラスメイトにはした?」
「いいえ…。誰にも言ってません」
そうか。賢明な判断だ。
有り難い。
「そう。ありがとう…。他の子には言わないでくれるかな?心配させたくないんだ」
「はい…分かりました」
あくまで他の生徒には、ナジュは重い病気で入院中、ということにしておきたい。
あくまで、ユイトの心の中だけに留めておいて欲しい。
そして、そのユイトにも…全てを話す訳にはいかない。
心苦しいが…それを話すことは、ユイト一人の背中には重過ぎる。
「…正直、私達もナジュ君が帰ってこられるかどうか、今の状態では分からないんだ」
「…」
シルナがそう打ち明けると。
ユイトは、ある程度覚悟していたのだろう。
唇を噛み締めはしたものの、狼狽したりも、取り乱しもしなかった。
精神力の強い子だ。
「でも、手は尽くしてる。必ず帰ってくると信じてる。いや…必ず、また帰ってこさせてみせるから」
「…」
「ユイト君も、信じて待っていて欲しい。心苦しいとは思うけど…」
「…はい」
…本当に、申し訳ない。
一人の生徒に、これだけの心痛を背負わせてしまうなんて…。
「…変わってないんですね」
「え?」
ユイトは、乾いた笑みを浮かべて言った。
「あの人…。去年も、一人で難しいこと抱え込んで…。今年もまた、こんな風に…」
「…全くだな」
生徒達でさえ、一年で飛躍的に進歩するのに。
あの読心不死身教師と来たら、去年とやることが何も変わってない。
そう思うと、笑いも出てくるってもんだ。
「怒ってやらないとな。帰ってきたら…。いっそ、また学生からやり直させるか?根性叩き直してやらんと」
「ふふ…」
俺達は、虚しい笑みを浮かべた。
叱るのも説教するのも、何するのも。
あいつが帰ってこなきゃ始まらない。
「…信じて、待ってます。俺…」
「あぁ。信じて…待っててやってくれ」
俺達も、信じてるから。
ナジュのことを心配している人間は、他にもいる。
生徒達から紙の花束を受け取り。
下校時刻が迫ってきた頃。
また一人、生徒が学院長室を訪ねてきた。
「…学院長先生、グラスフィア先生」
「…ユイト君…」
ユイト・ランドルフ。
現在、学生寮で令月のルームメイトとなっている、二年生の生徒だ。
そして去年、生徒としてイーニシュフェルト魔導学院に入学してきたナジュの、当時のルームメイトだった…。
「どうしたの、ユイト君…。もう下校時刻だよ」
シルナが、優しい声で言った。
しかし。
「…ナジュ…先生のこと」
彼が気にしているのは、やはり…ナジュのことだった。
そうだよな。
去年、あんなことがあったばかりで…。
「令月は、何も言わないけど…多分…ナジュ先生は、病気じゃないんですよね…?」
「…どうして、そう思う?」
「…短い付き合いだったけど…。何となく、彼の性分は分かってるから…」
…そうか。
「令月も普通じゃない感じで…。不気味なお面を二回も…造ってたりしてたし」
…。
…あいつ、あれ、ユイトの見てる前で造ったのか。
ユイトもビビっただろうなぁ。
ルームメイトが、いきなりあんな不気味な面を造り出して…。
今度からそういうことは、ルームメイトの見てないところでやれと、今度令月に言っとくよ。
「彼のことだから、きっと…。また、一人で何かを隠して…一人で難しいことを背負い込んで…。それで、今…こうなってるんじゃないかって…」
「…」
「…俺の、思い過ごしですか…?」
…そうだな。
お前の思い過ごしだったら…どんなに良かったか。
ただ病気で寝込んでいるだけなら…どれだけマシだったか…。
「…シルナ」
俺は、シルナに目配せした。
生徒に余計な情報を与えて、余計な心配をさせるなど、シルナの最も嫌うことだろう。
それは俺も同じだ。
でも。
彼には、ルーチェス・ナジュ・アンブローシアという人間を知る彼には。
知る権利がある。
「…そうだね。多分…君の想像通りだね」
シルナも、諦めたように言った。
「その話、他の…クラスメイトにはした?」
「いいえ…。誰にも言ってません」
そうか。賢明な判断だ。
有り難い。
「そう。ありがとう…。他の子には言わないでくれるかな?心配させたくないんだ」
「はい…分かりました」
あくまで他の生徒には、ナジュは重い病気で入院中、ということにしておきたい。
あくまで、ユイトの心の中だけに留めておいて欲しい。
そして、そのユイトにも…全てを話す訳にはいかない。
心苦しいが…それを話すことは、ユイト一人の背中には重過ぎる。
「…正直、私達もナジュ君が帰ってこられるかどうか、今の状態では分からないんだ」
「…」
シルナがそう打ち明けると。
ユイトは、ある程度覚悟していたのだろう。
唇を噛み締めはしたものの、狼狽したりも、取り乱しもしなかった。
精神力の強い子だ。
「でも、手は尽くしてる。必ず帰ってくると信じてる。いや…必ず、また帰ってこさせてみせるから」
「…」
「ユイト君も、信じて待っていて欲しい。心苦しいとは思うけど…」
「…はい」
…本当に、申し訳ない。
一人の生徒に、これだけの心痛を背負わせてしまうなんて…。
「…変わってないんですね」
「え?」
ユイトは、乾いた笑みを浮かべて言った。
「あの人…。去年も、一人で難しいこと抱え込んで…。今年もまた、こんな風に…」
「…全くだな」
生徒達でさえ、一年で飛躍的に進歩するのに。
あの読心不死身教師と来たら、去年とやることが何も変わってない。
そう思うと、笑いも出てくるってもんだ。
「怒ってやらないとな。帰ってきたら…。いっそ、また学生からやり直させるか?根性叩き直してやらんと」
「ふふ…」
俺達は、虚しい笑みを浮かべた。
叱るのも説教するのも、何するのも。
あいつが帰ってこなきゃ始まらない。
「…信じて、待ってます。俺…」
「あぁ。信じて…待っててやってくれ」
俺達も、信じてるから。


