神殺しのクロノスタシス3

そして。

ナジュのことを心配している人間は、他にもいる。

生徒達から紙の花束を受け取り。
 
下校時刻が迫ってきた頃。

また一人、生徒が学院長室を訪ねてきた。
 
「…学院長先生、グラスフィア先生」

「…ユイト君…」

ユイト・ランドルフ。
 
現在、学生寮で令月のルームメイトとなっている、二年生の生徒だ。
 
そして去年、生徒としてイーニシュフェルト魔導学院に入学してきたナジュの、当時のルームメイトだった…。

「どうしたの、ユイト君…。もう下校時刻だよ」

シルナが、優しい声で言った。

しかし。

「…ナジュ…先生のこと」

彼が気にしているのは、やはり…ナジュのことだった。
 
そうだよな。

去年、あんなことがあったばかりで…。

「令月は、何も言わないけど…多分…ナジュ先生は、病気じゃないんですよね…?」

「…どうして、そう思う?」

「…短い付き合いだったけど…。何となく、彼の性分は分かってるから…」

…そうか。

「令月も普通じゃない感じで…。不気味なお面を二回も…造ってたりしてたし」

…。  

…あいつ、あれ、ユイトの見てる前で造ったのか。
 
ユイトもビビっただろうなぁ。

ルームメイトが、いきなりあんな不気味な面を造り出して…。

今度からそういうことは、ルームメイトの見てないところでやれと、今度令月に言っとくよ。  

「彼のことだから、きっと…。また、一人で何かを隠して…一人で難しいことを背負い込んで…。それで、今…こうなってるんじゃないかって…」

「…」

「…俺の、思い過ごしですか…?」

…そうだな。

お前の思い過ごしだったら…どんなに良かったか。

ただ病気で寝込んでいるだけなら…どれだけマシだったか…。

「…シルナ」

俺は、シルナに目配せした。

生徒に余計な情報を与えて、余計な心配をさせるなど、シルナの最も嫌うことだろう。

それは俺も同じだ。

でも。

彼には、ルーチェス・ナジュ・アンブローシアという人間を知る彼には。

知る権利がある。

「…そうだね。多分…君の想像通りだね」

シルナも、諦めたように言った。

「その話、他の…クラスメイトにはした?」

「いいえ…。誰にも言ってません」
 
そうか。賢明な判断だ。

有り難い。

「そう。ありがとう…。他の子には言わないでくれるかな?心配させたくないんだ」

「はい…分かりました」

あくまで他の生徒には、ナジュは重い病気で入院中、ということにしておきたい。

あくまで、ユイトの心の中だけに留めておいて欲しい。  

そして、そのユイトにも…全てを話す訳にはいかない。

心苦しいが…それを話すことは、ユイト一人の背中には重過ぎる。

「…正直、私達もナジュ君が帰ってこられるかどうか、今の状態では分からないんだ」

「…」

シルナがそう打ち明けると。

ユイトは、ある程度覚悟していたのだろう。
 
唇を噛み締めはしたものの、狼狽したりも、取り乱しもしなかった。

精神力の強い子だ。
 
「でも、手は尽くしてる。必ず帰ってくると信じてる。いや…必ず、また帰ってこさせてみせるから」

「…」

「ユイト君も、信じて待っていて欲しい。心苦しいとは思うけど…」

「…はい」

…本当に、申し訳ない。  

一人の生徒に、これだけの心痛を背負わせてしまうなんて…。

「…変わってないんですね」

「え?」

ユイトは、乾いた笑みを浮かべて言った。
 
「あの人…。去年も、一人で難しいこと抱え込んで…。今年もまた、こんな風に…」

「…全くだな」

生徒達でさえ、一年で飛躍的に進歩するのに。
 
あの読心不死身教師と来たら、去年とやることが何も変わってない。
 
そう思うと、笑いも出てくるってもんだ。

「怒ってやらないとな。帰ってきたら…。いっそ、また学生からやり直させるか?根性叩き直してやらんと」

「ふふ…」

俺達は、虚しい笑みを浮かべた。

叱るのも説教するのも、何するのも。

あいつが帰ってこなきゃ始まらない。

「…信じて、待ってます。俺…」

「あぁ。信じて…待っててやってくれ」

俺達も、信じてるから。