神殺しのクロノスタシス3

俺達は、一向に諦めてはいなかった。

その日も、俺達は医務室に集まって。

ナジュの長い眠りを妨げるように、大騒ぎしていた。

「…考えたんだよ、羽久」

「…何を?」

「確かにチョコレートは美味しい。チョコレート菓子は何でも美味しい。それは今更確かめるまでもない事実だ」

真顔で何言ってんの?

「しかしね?チョコレート菓子には、僅かばかりの欠点がある」

…欠点?

何だ?

食べ過ぎると鼻血が出るとか?

それは迷信なんだっけ?  

「匂いがね…。匂いが薄いんじゃないかという点だ」
 
「…」  

…このおっさん、何言ってるんだろう。

「私ほどにもなると、半径5メートル以内に入るとチョコレートを感知出来るけど」

最高に無駄な能力だな。

「もしかしたら人間、寝てるときに傍にチョコレートを置かれても、『あ!カカオの匂いだ!』って気づかないんじゃないかと、最近思い始めたんだよ」

今?
 
お前、何千年と生きてて、そこに気づいたの今?
  
むしろ今までお前、人間寝てる間に傍にチョコレート置かれたら、『あ!カカオの匂いだ!』って気づいて起きると思い込んでたのか?

それお前だけだから。

「いやね?生徒に聞いてみたんだよ。寝てる間に、傍にチョコケーキ置かれたら、匂いで目を覚ますかな?って」

しかも、自分で気づいたんじゃなくて、生徒に聞いたのかよ。
 
「十人に聞いたんだけど、十人とも『多分気づかないと思います』って言われて」

そんなことを学院長に聞かれた、その十人の生徒が憐れで仕方ない。
 
何で十人も聞く必要があるんだよ。

一人で納得しろ。  

「もしかしたら、チョコレートは人間が目を覚ますには、ちょっと匂いが薄いのかもしれない…」

「…」

…まぁ。
 
「あ!チョコレートの良い匂いだ!起きよう!」とは…ならんよな。

そんなことで起きるのは、シルナくらいだ。
 
お前が寝込むことがあったら、傍に山盛りチョコレート置いといてやるよ。

それにチョコレートって、何と言うか。  

甘い匂いと言うよりは、ちょっと苦そうな、独特な匂いするよな。

あれがカカオの匂いってことなんだろうけど。

お菓子屋さんの前を通り過ぎて、「あーチョコレートの良い匂い〜」…とは。
 
あまり、ならないよな。

「故に私は、作戦を変えることにした!」

「…」

一ヶ月チョコレート戦法を仕掛け、見事に失敗したシルナが。

今度は、何を企んでいるのか。  

聞かなくても分かる。

…匂いで。  

「さぁナジュ君!存分にこの匂いを堪能して、そして目を覚ますんだ!」

シルナは、持参したケーキボックスの箱を開けた。
 
中には、芳ばしい香りを漂わせる、焼き立てのパンケーキが入っていた。

パンケーキの上には、たっぷりのバターと蜂蜜。
 
焼き立てパンケーキの芳ばしい香り、そして溶けたバターと、滴り落ちる蜂蜜の甘い香りが、医務室の中に充満していた。

…スメハラだ。

「あー良い匂い!良い匂い過ぎて私が食べたい!ナジュ君早く起きて!私が食べたくなっちゃうから!」

…勝手に食ってろ。 

この場にいる、シルナ以外の誰もがそう思った。