神殺しのクロノスタシス3

「それは…どういう意味かな?」

「『アメノミコト』は、君達が思ってるほど悠長じゃないよ」

何?

「今、この瞬間に、窓を破って暗殺者が入ってきてもおかしくない。今この瞬間、学生寮に暗殺者が忍び込んでてもおかしくない」

「!?」

「即断即決即行動。あの頭領なら、もう既に動いてるはずだよ。安心出来る瞬間なんて、もう一秒だってない。いつ来てもおかしくない。もう入り込んでてもおかしくない」

…。

…そこまで、手が早いとは。

こちらに、対策する隙を与えないという訳か。

俺達も、悠長にしてたつもりはなかったんだが…。

敵は、それ以上に早いらしい。

「特に春は、人の出入りが多いし…。もしかしたら、今年の入学生の中に潜んでるかも…」

「あ、それは大丈夫です」

と、ナジュ。

「イレースさんから頼まれたんですよ。去年、新入学生の振りをして、学院に忍び込んだ不届き者がいたそうで」

誰だろうな。その不届き者は。

成敗してやらないといけないな。

「今年はそれがないように、一人ずつ観察させて頂きました。今年の生徒は、全員シロです」

去年クロがいたのがおかしいんだよ。

全く不届き者だ。

「ですよねー。僕もそう思います」

「お前だ、お前」

何しらばっくれてんだ。

「じゃあ、生徒の振りをして潜入…という線は、ないと思って良いかな」

「…それでも、絶対とは言い切れないけどね」

と、不安顔の令月。

…そこまで…。

「…そんなに不安か?令月」

「…羽久…」

「そんなに心配するな。こちとら、百戦錬磨の精鋭が揃ってるんだ。昨日今日、魔導師やり始めた訳じゃない」

自意識過剰か、と言われるかもしれないが。

シルナは勿論、そのシルナと一緒に、俺も少なくない時間を共にしてきた。

その間に、様々な修羅場を潜り抜けてきた。

何なら、神様とだって戦ったことがあるのに。

それに比べりゃ、『アメノミコト』なんて可愛いもんだ。

そして、俺とシルナだけじゃない。

元ラミッドフルスの鬼教官イレース。彼女の実力も、伊達に鬼教官と呼ばれていた訳ではない。

あらゆる魔法を使いこなす、汎用性の高い、しかも洗練された魔導師だ。

常に冷静沈着で、不測の事態が起きたとしても、咄嗟の判断力がある。

それから、ナジュ。

こいつに関しては、もう言うまでもない。

常に相手が何を考えているか分かるという、チートじみた魔法の使い手であると同時に。

不死身という、最強スキル持ちだ。

それに、今回は天音もいる。

天音の回復魔法の精度は、シルナのそれに匹敵すると言っても過言ではない。

おまけに、回復魔法だけでなく、光魔法にも長けている。

潜在魔力量の多さもあって、長期戦にも向いている。

これだけ、粒揃いの教員をかき集めたのだ。

例え相手がどう攻めてきても、恐れるに値しない。

お前には、最強の味方がついてるのだ。

何を、そんなに怖がる必要がある。

「…皆の実力は知ってる。先日の襲撃のときに、垣間見せてもらったから」

「だったら、何がそんなに不安なんだ?」

「味方のことが頼りないからじゃない。敵のことが分からないから」

…何?

「お前の古巣じゃないのか。『アメノミコト』は…」

「そうだね。でも、僕はほとんど知らないんだ。他の暗殺者のことを」

「…!」

そういうことか。

令月の不安の意味が、ようやく分かった。