神殺しのクロノスタシス3

俺は、ツキナにもらった紫陽花の花束を手に。  

遅れ馳せながら、医務室に向かった。  

さっき、沈んでいた俺の心を癒やしてくれたから。

今度は、ナジュせんせーを癒やしてやってくれ。紫陽花。

すると。
 
「…げ」

「あ、『八千歳』…」

ナジュせんせーの傍らに、丸椅子を置いて。

『八千代』が、そこに座っていた。

何でいるのこいつ…。

「…学院長せんせー達は?」

「さっき帰った。入れ違いだね」

あっそ。
 
「それじゃ、何で君はまだここに残ってるの?」

「何でだろ。不死身先生が心配だからかな」

「ふーん…。君に、誰かを心配する気持ちがあったことに驚いたよ」

「僕もだよ」

は?
 
『八千代』は、相変わらず無表情に俺を見つめて言った。

「『八千歳』が、誰かを心配するとは思わなかった」

「…」

…くっ…そ。

「一緒にしないでくれるかな〜?俺は、生まれたときから善意の塊だよ」

「そっか」

…まぁ、それは嘘なんだけど。

それより。

気になるのは、ナジュせんせーの傍らに立て掛けられた、何処か見覚えのあるお面。

「何を持ってきてるのさ…」

「まじないのお面」

「…」

それさー、ジャマ王国の人間には、効果あるかもしれないけど。

ナジュせんせーには、無理なんじゃないかな。

むしろ、目を覚ました途端に、ビビってまた失神しそう。  

「何処から持ってきたのさ」

「自分で造った」

無駄なところで仕事がまめ。

こんな迷信に、本気で効果があると思って、このお面をせっせと自作したのかと思うと。

本当に馬鹿だなぁと思うけど。

しかし、今ばかりは、他人のことは言えない。
 
俺だって、病人の傍に花束を持ってくれば、早く元気になる…なんて迷信に惑わされて、紫陽花持ってきたんだから。

これって何か、効果実証されてるの?

どっちかと言うと、持ってきた人間の自己満足のような気がするけど。

そもそもナジュせんせー寝てるんだから、いくらおどろおどろしいお面を持ってこようが、綺麗な紫陽花持ってこようが。

見えてなきゃ意味がない。  

何をやってるんだろうなー。俺達。
 
…ただ、何もせずにはいられないだけなんだろうな。

「それどうしたの、紫陽花」

「園芸部でもらってきた…。ナジュせんせーにあげる」

「そっか。喜ぶと良いね」

そーだね。

医務室に置いてあった花瓶を拝借し、そこに紫陽花を活け。

ナジュせんせーのベッドの、サイドテーブルに置いてみる。

…何処からどう見ても、ザ・病人って感じ。
  
お面がシュール過ぎる。 

「…早く起きてよ」

俺は、眠り続けるナジュせんせーに声をかけた。
 
どうせ届いてないと分かっていても。
 
「どうやって白馬の王子様になろうかとか、何処に花畑作ろうかとか…相談出来るの、君だけなんだからさー…」

折角、俺の心の仮面を破れるようになったばっかじゃん。

実戦で試すんじゃなかったの。

こんなところで寝てたんじゃ…。

「…『八千歳』」

「…何だよ?」

「よく分かんないけど、王子様とか花畑のことなら、僕が相談に…」

「あーはいはい、そーいうの良いからね〜。気持ちだけ受け取っとくよ」

折角、手土産持って見舞いに来たのに。

『八千代』のせいで、雰囲気がぶち壊しだよ。全く。