「…じゃあ、令月君。恥を忍んで聞くけれど」
シルナが言った。
「君は、どう対策するのが良いと思うかな?」
令月は、ついこの間まで『アメノミコト』にいた人間。
敵を知るには、うってつけの人物だ。
協力してくれるのなら、洗いざらい話してくれた方が、こちらとしては有り難い。
勿論、それが令月の古傷を抉る行為であるということは、分かっている。
かつての仲間を裏切れ、と言ってるのと同義だってことも。
だから、シルナの問いは、とても残酷なものだ。
それでも。
それでも、イーニシュフェルトを。令月を守る為には。
令月の協力が、不可欠なのだ。
そしてそのことは、令月自身も自覚している。
令月は、少し考えて言った。
「…分身」
「分身?」
「学院長の分身、もっと増やせる?」
やはり、まずは警備の「目」を増やすか。
「分かった。増やそう」
「あとね、人型でない方が良い。すぐバレるから。出来れば形を変えて。色んな種類で」
「形を変えて…色んな種類…か」
「前、カマキリになってたでしょ?あんな感じで、カマキリとかムカデとかミミズとか、小さいものに化けた方が見つかりにくくて、良いと思う」
「…うん…」
前回の、「シルナオオカマキリ事件」を思い出したのか。
シルナは、若干浮かない顔だった。
あれはお前が悪いよ。
つーか、気持ち悪い虫ばっか。
「でも、それでもあなた、あのカマキリが学院長の分身だって気づいてたじゃないですか」
と、ナジュ。
「うん。初見で気づいた」
「ってことは、あなたクラスの暗殺者が派遣されてきたら、いくら学院長がカマキリになろうが、オオムカデになろうが、その人も気づくでしょうね」
「多分ね」
あくまで、気づかれることは前提…か。
「だから、分身を増やすのは、精々『見つけられればラッキー』くらいに思っていた方が良い」
…それはそれは。
シルナオオカマキリごときじゃ、令月レベルの暗殺者の目は誤魔化せないってことか。
…厄介だな。
皆の手前、口には出さないが。
「…それから」
令月は、意外な人物に向き直った。
「天音…先生」
「…何?」
「あなたは、回復魔法が得意なんだよね?」
「そうだけど…」
天音は、困惑気味に答えた。
天音が回復魔法得意なことと、『アメノミコト』に何の関係が?
「毒魔法の治療とか、出来る?」
「…!」
…毒。
そうか。『アメノミコト』の暗殺の手口は…。
「まず間違いなく、毒を使ってくる。普通の毒だけじゃない、『アメノミコト』には、独自で開発した毒魔法がある。『アメノミコト』の暗殺者の、ほぼ全員が使える」
「…毒魔法…」
えげつない魔法だ。
読心魔法に負けず劣らずだ。
「え?僕の魔法、毒魔法と同列に並べられてます?しっつれいな~。毒魔法ほど陰湿じゃありませんよ」
「勝手に人の心を読む魔法が、陰湿以外の何だって?」
何ならお前、もう黙っといてくれないかな。
「種類も豊富だし、殺す以外にも、色んな用途がある。大抵は相手を即死させる毒が多いから、回復魔法を使う余裕はないと思うけど…」
「あぁ、僕も使われましたよそれ。即死の毒。心臓痛くて死ぬかと思いました」
ナジュの「死ぬかと思った」は、マジだからな。
お前、不死身で良かったな。
「中には、遅効性の毒もある。もし遅効性の毒なら、回復魔法で治せるかもしれない。物凄く複雑な魔導理論で配合された毒だから、それを解析して解毒するのは難しいと思うけど…」
成程。
それで、回復魔法を得意とする天音に頼んだのか。
もしかしたら、天音なら。
『アメノミコト』の毒を使われても、解毒出来るかもしれないから。
「現状、僕が知ってる毒については、天音さんに教えておく。出来たら、解毒法を確立させて欲しい」
「…分かった。やってみる」
天音の眼差しは、真剣そのものだった。
必ずやってみせる、という強い意思を感じた。
「…まぁ、そのくらい向こうも対策済みだろうから、僕が知ってる毒は使わないと思うけど…」
「関係ないよ。例え無駄になっても、やれることは全部やっておいた方が良い」
天音の言う通り。
やれることはやっておくべきだ。
「それに…今から解析を始めたとしても、間に合うかどうか」
「…?」
…間に合う?
「どういう意味だ?令月…」
「…」
令月は、俺達に振り向いた。
その目、子供らしからぬ、暗殺者の目に、俺はゾッとした。
「…皆、ちょっと悠長過ぎると思う」
…悠長、だって?
シルナが言った。
「君は、どう対策するのが良いと思うかな?」
令月は、ついこの間まで『アメノミコト』にいた人間。
敵を知るには、うってつけの人物だ。
協力してくれるのなら、洗いざらい話してくれた方が、こちらとしては有り難い。
勿論、それが令月の古傷を抉る行為であるということは、分かっている。
かつての仲間を裏切れ、と言ってるのと同義だってことも。
だから、シルナの問いは、とても残酷なものだ。
それでも。
それでも、イーニシュフェルトを。令月を守る為には。
令月の協力が、不可欠なのだ。
そしてそのことは、令月自身も自覚している。
令月は、少し考えて言った。
「…分身」
「分身?」
「学院長の分身、もっと増やせる?」
やはり、まずは警備の「目」を増やすか。
「分かった。増やそう」
「あとね、人型でない方が良い。すぐバレるから。出来れば形を変えて。色んな種類で」
「形を変えて…色んな種類…か」
「前、カマキリになってたでしょ?あんな感じで、カマキリとかムカデとかミミズとか、小さいものに化けた方が見つかりにくくて、良いと思う」
「…うん…」
前回の、「シルナオオカマキリ事件」を思い出したのか。
シルナは、若干浮かない顔だった。
あれはお前が悪いよ。
つーか、気持ち悪い虫ばっか。
「でも、それでもあなた、あのカマキリが学院長の分身だって気づいてたじゃないですか」
と、ナジュ。
「うん。初見で気づいた」
「ってことは、あなたクラスの暗殺者が派遣されてきたら、いくら学院長がカマキリになろうが、オオムカデになろうが、その人も気づくでしょうね」
「多分ね」
あくまで、気づかれることは前提…か。
「だから、分身を増やすのは、精々『見つけられればラッキー』くらいに思っていた方が良い」
…それはそれは。
シルナオオカマキリごときじゃ、令月レベルの暗殺者の目は誤魔化せないってことか。
…厄介だな。
皆の手前、口には出さないが。
「…それから」
令月は、意外な人物に向き直った。
「天音…先生」
「…何?」
「あなたは、回復魔法が得意なんだよね?」
「そうだけど…」
天音は、困惑気味に答えた。
天音が回復魔法得意なことと、『アメノミコト』に何の関係が?
「毒魔法の治療とか、出来る?」
「…!」
…毒。
そうか。『アメノミコト』の暗殺の手口は…。
「まず間違いなく、毒を使ってくる。普通の毒だけじゃない、『アメノミコト』には、独自で開発した毒魔法がある。『アメノミコト』の暗殺者の、ほぼ全員が使える」
「…毒魔法…」
えげつない魔法だ。
読心魔法に負けず劣らずだ。
「え?僕の魔法、毒魔法と同列に並べられてます?しっつれいな~。毒魔法ほど陰湿じゃありませんよ」
「勝手に人の心を読む魔法が、陰湿以外の何だって?」
何ならお前、もう黙っといてくれないかな。
「種類も豊富だし、殺す以外にも、色んな用途がある。大抵は相手を即死させる毒が多いから、回復魔法を使う余裕はないと思うけど…」
「あぁ、僕も使われましたよそれ。即死の毒。心臓痛くて死ぬかと思いました」
ナジュの「死ぬかと思った」は、マジだからな。
お前、不死身で良かったな。
「中には、遅効性の毒もある。もし遅効性の毒なら、回復魔法で治せるかもしれない。物凄く複雑な魔導理論で配合された毒だから、それを解析して解毒するのは難しいと思うけど…」
成程。
それで、回復魔法を得意とする天音に頼んだのか。
もしかしたら、天音なら。
『アメノミコト』の毒を使われても、解毒出来るかもしれないから。
「現状、僕が知ってる毒については、天音さんに教えておく。出来たら、解毒法を確立させて欲しい」
「…分かった。やってみる」
天音の眼差しは、真剣そのものだった。
必ずやってみせる、という強い意思を感じた。
「…まぁ、そのくらい向こうも対策済みだろうから、僕が知ってる毒は使わないと思うけど…」
「関係ないよ。例え無駄になっても、やれることは全部やっておいた方が良い」
天音の言う通り。
やれることはやっておくべきだ。
「それに…今から解析を始めたとしても、間に合うかどうか」
「…?」
…間に合う?
「どういう意味だ?令月…」
「…」
令月は、俺達に振り向いた。
その目、子供らしからぬ、暗殺者の目に、俺はゾッとした。
「…皆、ちょっと悠長過ぎると思う」
…悠長、だって?


