…でも。

本当に、そうだな。

俺は、シルナと顔を見合わせた。

シルナも、もう心配そうな顔はしていなかった。

「大丈夫。ナジュ君は、必ず帰ってくるよ」

「…あぁ」

そうだ。あいつは、必ず帰ってくる。

「で、でも学院長先生…」

天音は、まだ納得出来ていないようだったが。

シルナが、そんな天音を宥めるように言った。

「根拠なく言ってるんじゃないよ。ナジュ君は元々普通の人じゃない。これは事実だ。彼は元々…読心魔法の使い手で、彼の脳の容量は、普通の人よりずっと多くて、そして柔軟だ」

その通り。

ナジュの脳みそは、元々読心魔法に適した仕様になっている。

付け焼き刃でも、短時間の訓練で、更に脳の許容量を増やしている。

何より、あのナジュが。

あの男が、そう簡単にくたばるものか。

その程度でくたばる相手に、伊達にこちとら、苦労させられてねぇよ。

あいつが何したか覚えてるか?

『カタストロフィ』に所属して、ヴァルシーナと組んで。

監視の目を欺いて『禁忌の黒魔導書』をばら撒き、散々俺達を翻弄し。

かと思えば生徒の振りして学院に潜り込み、やりたい放題やってくれた挙げ句。

何事もなかったかのように、イーニシュフェルト魔導学院の教師の座に収まったかと思えば。

あっと言う間に、女子生徒に圧倒的支持を集める人気教師に成り上がった。

そんな男が。

そう簡単に、くたばるはずがない。

大体。

目が覚めたら、俺はあいつに謝らなきゃならない。

俺達は何も気付けなくて、ナジュを傷つけて、無理させてごめんって。

そして。

「一人で先走って、一人で無理して、馬鹿野郎って…ぶん殴ってやらないと、気が済まないからな」

だから、絶対戻ってきてもらわなければ困るのだ。

良いか、ナジュ。

お前は、このイーニシュフェルト魔導学院に必要な存在だ。

「…早く、戻ってこいよ」

俺達は、皆待ってるから。