…それで。
本題に戻ろう。
「無駄、だって?」
「?」
「俺達がやろうとしてる対策。お前、無駄だって言っただろ」
「あぁ…」
思い出してくれたか。
「そうだね、無駄だね」
「そもそもお前、何処から聞いてた?」
「『…皆、もう分かってると思うけど』から」
「…」
最初からかよ。
部屋の外で立ち聞きしてたのか?
全く気配を感じなかったぞ。
さすがと言うべきか。俺達がぬかったと言うべきか。
「国境の警備とか、学院の警備とか。全部無駄。やっても意味ないよ」
「そう思う根拠は?」
「忘れたの?僕も最初は、学院長を狙う暗殺者として派遣されてきたんだよ」
…あぁ。
「おまけに、ついさっき学生寮から、校舎内に侵入して、ここまで来た。それだけで分かるでしょ?」
成程、成程ね。
令月ほどの暗殺者ともなれば。
国境の厳重な警備なんて、失笑モノなんだろう。
そして、学院の警備も。
学生寮から抜け出して、学院内にうようよいるシルナ分身の目も掻い潜って、学院長室までやって来た。
令月にはそれくらいのこと、当然のように出来るのだ。
それくらいのことは、当然のように出来て当たり前の世界から、彼は来たのだ。
そしてこれから、俺達を襲撃しようと狙っている連中は。
令月と、同じところから来た連中だ。
だから、当然国境も平気で越えるし。
平気で、学院内にも侵入出来ると。
成程、説得力が段違いだな。
「しかし、国境の警備は、あなたが国境を越えたときよりも強化されているはずですよ」
と、イレース。
令月に、難なく国境突破されてしまったから。
今度は、もっと強化しましょう、ということで、警備隊を増員してもらったはずなのだが。
しかし。
「うん、無駄」
きっぱりと断言する令月。
溜め息出てきそうになるな。
俺達の努力、全くの無意味かよ。
「やるなら、そうだな…。陸海路を全て封鎖して、国境際に十メートルくらいのコンクリ壁を全方位にぐるっと建てる。これくらいしたら、多少の対策にはなるかもね」
マジかよ。
そんな鎖国状態で、それでも「多少の対策」にしかならないのか。
「それと、最初学院長が言ってた、敵の標的が分からない、っていう点だけど」
うん?
「こればかりは頭領さ…頭領の一存で決まるから、確かなことは言えないけど」
「何?」
「狙いは多分、僕か、イーニシュフェルト魔導学院だと思う」
…ほう。
「そう思う根拠は?」
「『アメノミコト』は裏切り者を許さない。裏切り者は必ず抹殺する。そして、見せしめの為に、裏切り者を匿ったり幇助した者も、一緒に殺される」
「…」
…嫌な話だな。
「その理論だと、あなたを匿い、特別に国籍を取得させたルーデュニア聖王国も、抹殺されなきゃならないことになりますが?」
けろっとして、ナジュが聞いた。
「確かに、僕を匿ったルーデュニア聖王国…国ごと相手にする…ことは考えられる。頭領が何を考えるか分からないけど…。でも、国ごと相手にはしないと思う」
「根拠は?」
「『アメノミコト』でも、聖魔騎士団を相手にするのは骨が折れるだろうから。ましてや、先日の襲撃で、聖魔騎士団の実力は充分分かってる」
…成程。
さすがに、勝てない相手にまで手を出すほど馬鹿じゃないってことか。
「それより、個人を狙った方が良い。特に…学院長は危ないと思う」
何だと?
「え、私?」
「うん。学院長は、聖魔騎士団でも軸になってる人物なんでしょ?」
「それは…。まぁ…厚かましいようだけど、そう言えるかもしれないね」
堂々と言えよ。
実際シルナは、普段はイーニシュフェルト魔導学院にいるけれど。
一応、聖魔騎士団魔導部隊の名誉顧問という籍も持っている。
一声で、聖魔騎士団魔導部隊の大隊長を動かす、その権限も持っている。
シルナを始末されれば、聖魔騎士団も痛手では済まない。
致命的なまでのダメージを与えられる。
成程ね。
「聖魔騎士団そのものを敵に回すのは難しい。なら、その聖魔騎士団をまとめてる実質的支配者、要である学院長一人を抹殺すれば、勝手に瓦解してくれるだろうって腹ですか」
イレースが、分かりやすくまとめてくれた。
「うん、そういうこと」
「腹黒いこと考えますね~…。いかなるときも清廉潔白な僕を見習って欲しいですよ、全く」
この場で最も腹黒い奴が、何か言ってるぞ。
「失礼ですね羽久さん。僕ほど腹の白い人間はいませんよ」
「勝手に人の心を読む奴の腹が何色だって?」
そんなことはどうでも良いんだよ。
それよりも敵の、『アメノミコト』の標的だ。
「『アメノミコト』という暗殺集団の性質からして…。大きな規模の襲撃は、出来るだけ避けると思う。だから、狙うのは僕と、あとは学院長…。それから、教師生徒問わず、イーニシュフェルト魔導学院の人間。あの頭領なら、その辺りに狙いを絞ると思う」
「…成程ね」
徒党を組んで、いざ尋常に勝負!と宣戦布告してやって来る暗殺集団は、まずいないよな。
もっとこっそりひっそりと、静かに近づいてくるはずだ。
かつて、令月がそうしたように。
本題に戻ろう。
「無駄、だって?」
「?」
「俺達がやろうとしてる対策。お前、無駄だって言っただろ」
「あぁ…」
思い出してくれたか。
「そうだね、無駄だね」
「そもそもお前、何処から聞いてた?」
「『…皆、もう分かってると思うけど』から」
「…」
最初からかよ。
部屋の外で立ち聞きしてたのか?
全く気配を感じなかったぞ。
さすがと言うべきか。俺達がぬかったと言うべきか。
「国境の警備とか、学院の警備とか。全部無駄。やっても意味ないよ」
「そう思う根拠は?」
「忘れたの?僕も最初は、学院長を狙う暗殺者として派遣されてきたんだよ」
…あぁ。
「おまけに、ついさっき学生寮から、校舎内に侵入して、ここまで来た。それだけで分かるでしょ?」
成程、成程ね。
令月ほどの暗殺者ともなれば。
国境の厳重な警備なんて、失笑モノなんだろう。
そして、学院の警備も。
学生寮から抜け出して、学院内にうようよいるシルナ分身の目も掻い潜って、学院長室までやって来た。
令月にはそれくらいのこと、当然のように出来るのだ。
それくらいのことは、当然のように出来て当たり前の世界から、彼は来たのだ。
そしてこれから、俺達を襲撃しようと狙っている連中は。
令月と、同じところから来た連中だ。
だから、当然国境も平気で越えるし。
平気で、学院内にも侵入出来ると。
成程、説得力が段違いだな。
「しかし、国境の警備は、あなたが国境を越えたときよりも強化されているはずですよ」
と、イレース。
令月に、難なく国境突破されてしまったから。
今度は、もっと強化しましょう、ということで、警備隊を増員してもらったはずなのだが。
しかし。
「うん、無駄」
きっぱりと断言する令月。
溜め息出てきそうになるな。
俺達の努力、全くの無意味かよ。
「やるなら、そうだな…。陸海路を全て封鎖して、国境際に十メートルくらいのコンクリ壁を全方位にぐるっと建てる。これくらいしたら、多少の対策にはなるかもね」
マジかよ。
そんな鎖国状態で、それでも「多少の対策」にしかならないのか。
「それと、最初学院長が言ってた、敵の標的が分からない、っていう点だけど」
うん?
「こればかりは頭領さ…頭領の一存で決まるから、確かなことは言えないけど」
「何?」
「狙いは多分、僕か、イーニシュフェルト魔導学院だと思う」
…ほう。
「そう思う根拠は?」
「『アメノミコト』は裏切り者を許さない。裏切り者は必ず抹殺する。そして、見せしめの為に、裏切り者を匿ったり幇助した者も、一緒に殺される」
「…」
…嫌な話だな。
「その理論だと、あなたを匿い、特別に国籍を取得させたルーデュニア聖王国も、抹殺されなきゃならないことになりますが?」
けろっとして、ナジュが聞いた。
「確かに、僕を匿ったルーデュニア聖王国…国ごと相手にする…ことは考えられる。頭領が何を考えるか分からないけど…。でも、国ごと相手にはしないと思う」
「根拠は?」
「『アメノミコト』でも、聖魔騎士団を相手にするのは骨が折れるだろうから。ましてや、先日の襲撃で、聖魔騎士団の実力は充分分かってる」
…成程。
さすがに、勝てない相手にまで手を出すほど馬鹿じゃないってことか。
「それより、個人を狙った方が良い。特に…学院長は危ないと思う」
何だと?
「え、私?」
「うん。学院長は、聖魔騎士団でも軸になってる人物なんでしょ?」
「それは…。まぁ…厚かましいようだけど、そう言えるかもしれないね」
堂々と言えよ。
実際シルナは、普段はイーニシュフェルト魔導学院にいるけれど。
一応、聖魔騎士団魔導部隊の名誉顧問という籍も持っている。
一声で、聖魔騎士団魔導部隊の大隊長を動かす、その権限も持っている。
シルナを始末されれば、聖魔騎士団も痛手では済まない。
致命的なまでのダメージを与えられる。
成程ね。
「聖魔騎士団そのものを敵に回すのは難しい。なら、その聖魔騎士団をまとめてる実質的支配者、要である学院長一人を抹殺すれば、勝手に瓦解してくれるだろうって腹ですか」
イレースが、分かりやすくまとめてくれた。
「うん、そういうこと」
「腹黒いこと考えますね~…。いかなるときも清廉潔白な僕を見習って欲しいですよ、全く」
この場で最も腹黒い奴が、何か言ってるぞ。
「失礼ですね羽久さん。僕ほど腹の白い人間はいませんよ」
「勝手に人の心を読む奴の腹が何色だって?」
そんなことはどうでも良いんだよ。
それよりも敵の、『アメノミコト』の標的だ。
「『アメノミコト』という暗殺集団の性質からして…。大きな規模の襲撃は、出来るだけ避けると思う。だから、狙うのは僕と、あとは学院長…。それから、教師生徒問わず、イーニシュフェルト魔導学院の人間。あの頭領なら、その辺りに狙いを絞ると思う」
「…成程ね」
徒党を組んで、いざ尋常に勝負!と宣戦布告してやって来る暗殺集団は、まずいないよな。
もっとこっそりひっそりと、静かに近づいてくるはずだ。
かつて、令月がそうしたように。


