神殺しのクロノスタシス3

「さー羽久食べよ!フロランタンた~べよ!」

嬉しそうで何より。

「令月君もほら!そんな勉強ばっかりしてないで!フロランタン食べよ!」

「風呂…提燈(らんたん)…!?」

令月が、何か凄い勘違いをしている気がする。

そんなものを食べるのかと、驚愕していらっしゃる。

大丈夫だ令月。食べ物だから。

「イレースちゃんは、多分また後で来てくれるからそのときに…。で、こっちがナジュ君の分!」

「…」

…って。

「…いないぞ?ナジュ」

「えっ!何で!?」

何でだろうな。

「最近また見なくなったよな…。一時期は戻ってきてたのに…」

あいつ、何処ほっつき歩いてんの?

またすぐりのところに行って、悪どいことでも企んでるのだろうか。

「令月、何か聞いてるか?」

「何を?風呂提燈について…?」

いやそれじゃなくて。

「ナジュだよ。すぐりとつるんで、また悪さしてるんじゃないのか?」

「知らない…。ただ、『八千歳』この間、変なこと言ってたけど」

「変なこと?」

令月もだいぶ変なことばっか言ってるけどな。風呂提燈とか。

「この間は、馬買ってこなきゃ…って言ってた」

「馬!?」

…何を考えてるんだ、あいつは。

競馬でも始めるつもりなのか?

ナジュに変な入れ知恵でもされたのか?

分からん…。あいつ、全然ここに来ないから、今何処でどういう状況なのか、全然分からん。

しかし、すぐりのところに入り浸っている訳ではないのか。ナジュの奴は。

じゃあ何処に行ったんだ?

あいつは、人の心は簡単に読む癖に、自分の心は読まれないと思って、好き勝手やるからな。

「え~…。またナジュ君いないの?フロランタンが余っちゃうよ~…」

「…風呂と提燈、本気で食べるつもりなんだ…」

「…」

…まぁ、この天然二人は置いておくとして。

ナジュの奴、何をやってるんだか。

今度、問い質してみた方が良いかな…。

…と、思っていると。

「こんにちはー、学院長先生」

「あっ、サトリ君!いらっしゃい!」

学院長室に、生徒が一人、訪ねてきた。

六年生の男子生徒である。

六年生にもなれば、学院長室に入ってくるのも慣れたもの。

一、二年生は緊張でガチガチしながら入ってくるが。

上級生になるにつれて、別に自分の部屋感覚で入っても、何一つ咎められることはないと悟っていく。

イーニシュフェルトあるあるみたいなものだ。

「どうしたの?何か用事?」

「あ、はい」

「何々?私に解決出来ることならな~んでも…」

「え?いや、学院長先生じゃなくて、グラスフィア先生に」

俺?

「がーんっ」

シルナ、絶望。

残念だったな。お前要らないってさ。

「俺に何の用だ?」

「これ、昨日課題に出た、時魔法のレポート…。提出しに来ました」

あぁ、成程。

確かに昨日、時魔法の授業でレポート課題出したっけな。

「早かったな。一番乗りだ」

「えへへ、ちょっと頑張ってみました」

そうか。

勉強熱心で良いことだ。将来有望だな。

「分かった。確かに受け取った」

「宜しくお願いします」

レポートを提出し、帰っていこうとするサトリを。

シルナが、ガシッと鷲掴みにした。

おい。

「が、学院長?」

「フロランタン!折角だからフロランタン持ってってほら!ナジュ君いなくて余っちゃって~!」

「ふ、フロランタン…。…あ、ナジュ先生と言えば」

うん?

サトリはくるりと振り向き、苦笑いでこう言った。

「聞きましたよ、学院長先生」

「…?何を?」

「秘蔵のチョコレートをこっそり食べられたからって、ナジュ先生を追い出したそうじゃないですか。もうそろそろ許してあげてくださいよ~」

と。

サトリは、苦笑いで言ったが。

俺もシルナも、訳が分からずはてなマークを浮かべた。

…何の話だ?

「チョコ…?追い出した…?」

「ナジュ先生立ち入り禁止!って。まぁ、お陰で風魔法サークルの活動が捗って良いって、友達が言ってました。俺の友達、風魔法サークルに入ってるんで」

「…風魔法サークル…?」

ますます、何の話だ?

俺とシルナは、訳が分からず顔を見合わせた。

…サトリが嘘をつくはずがないし、嘘をついてる様子もないし。

一体、俺達が知らない間に、何が起きてるんだ?

「サトリ、その話詳しく…」

聞かせてくれ、と頼もうとした、

そのとき。

バーン!と音を立てて、学院長室の扉が開けられた。

すると、そこには。

「…ひっ」

思わず後ずさりしてしまいそうなほど、怒りのオーラを身にまとった…。

…元ラミッドフルスの鬼教官、イレースが立っていた。