これは、ちょっと想定外。
一瞬、読心をやめようかと思った。
しかし、僕は踏み留まった。
ここで簡単にやめてしまうから、僕はいつまでたっても、弱点を克服出来ないのだ。
続けろ。四人目を入れろ。
壁を越えろ。越えようとしなきゃ越えられないぞ。
僕はイレースさんを含めて、同時に四人の読心を始めた。
またしても頭痛が走ったが、何とか堪える。
「学院長、これ、今日届いた郵便物です」
「ありがとーイレースちゃん。丁度良かった、一緒にマカロン、」
「それと、先日魔導教育委員会から打診のあった、『魔導倫理法Ⅱ』の履修範囲見直しの件についてですが」
「無視!?マカロンは無視なの!?」
そんなふざけた会話も、僕の耳にはほとんど届いていなかった。
イレースさん、あなたは色んなことを考え過ぎだ。
彼女にとっては、その状態がデフォルトなのだろうが。
あなた、常に頭をフル回転させるタイプ?
「各魔導師養成学校の科目担当教師に、意見書を提出するよう、委員会から要請が来てますよ。うちはどうします?」
「あー、えー、それねー。うーん、どうしよっかなー」
「早く決めてください。私が代筆して良いなら、しますけど」
「あ、イレースちゃん書いてくれる?」
「えぇ。『魔導倫理法』の科目については、元々不満がありましたから」
「…??何で?」
などと、学院長が安易に聞くものだから。
イレースさんの頭の中で、とぐろを巻いていた不満が爆発した。
一気に、脳内に流れ込む情報の量が増えた。
「履修範囲が狭過ぎるんですよ。大体この学院からして、分身魔法だの読心魔法だの、法外みたいな魔法が横行しているのに」
済みません、それ今使ってるの僕です。
「それらの特殊な魔法の利用規定について、もっと厳密に定めるべきです。それなのにあの科目と来たら、大多数の魔導師が使う、在り来たりな魔法の使用に関する倫理を述べているだけで、そういう特殊な魔法についてはほぼ、全くと言って良いほど触れてないんですから」
「う、うん…」
色んな意味で頭が痛い。
ごめんね、読心魔法乱用して。
「これからは、そういった多種多様な魔法に対応し、特に、要注意魔法区分に分類される魔法の種類を見直すべきですね。大体あの区分は規定が曖昧過ぎるんですよ。もっと明確、かつ正確な根拠に基づいた枠決めをした上で、慎重な区分を…。って、聞いてますか学院長」
「うん、うん分かった。分かったよイレースちゃん。意見書については、イレースちゃんに任せるから…」
考えることを放棄したらしい学院長。
僕も、心を読むことを放棄したい。
イレースさん、あなたの情報量は多過ぎる。
頭パンクしそう。
「それよりマカロン…マカロン食べよ?マカロン食べたら、そんな難し~いことからも解放されて…」
「結構です。私はこれから、その難し~いことをたっぷりと意見書にしたため、委員会に提出しなければなりませんから」
そうですね。
あなたの頭の中、「意見書に何て書いてやろうか、いや、この際だから追加書類も添付して、徹底的に重箱の隅をつっついてやろう」と。
これから書き連ねるであろう文面を、既に頭の中で組み立てていらっしゃる。
その傍らでは、令月さんが、丁度難しそうな数学の問題に頭を悩ませている。
学院長と、羽久さんの思考が穏やかなので、まだ何とか耐えられた。
…頭が痛い。
「…?ナジュ、どうした?渋い顔して」
「え、あ」
またしても、羽久さんに声をかけられた。
そんなに、渋い顔になってた?
甘いマカロン食べてたはずなのにな。
「また舌でも噛んだか?」
「ナジュ君、マカロン嫌いだったっけ?」
「激辛マカロンでも混じってた?」
「何です。あなたも『魔導倫理法』について、何か物申したいことでも?」
ちょっと、皆一斉にバラバラなこと聞かないで。
頭の中が、マカロンと『魔導倫理法』で破裂しそう。
読心をやめようかと思って、しかし、やはり踏み留まった。
息を整え、頭の中を整理する。
大丈夫。大丈夫だ。ちゃんと制御出来る。
以前とは違うのだ。
「…奥歯に」
僕は、何とか言葉を捻り出した。
「奥歯?」
「奥歯の…絶妙な場所に…マカロンの欠片が挟まって…」
「…」
我ながら、酷い言い訳だと思ったが。
「それくらい、お茶で流し込め」
「大丈夫?つまようじ要る?」
「激辛じゃなかったんだね」
「なんだ…。意見がないなら、私が一人で書きますよ」
四人共、信じてくれたようだ。
そして。
「それじゃ、私は職員室で意見書を書いてくるので」
イレースさんは、用は済んだとばかりに、そのまま学院長室から出ていった。
途端に、頭の中が楽になった。
…はぁ。何とかなった。
イレースさんがいるときは、要注意だな。
一瞬、読心をやめようかと思った。
しかし、僕は踏み留まった。
ここで簡単にやめてしまうから、僕はいつまでたっても、弱点を克服出来ないのだ。
続けろ。四人目を入れろ。
壁を越えろ。越えようとしなきゃ越えられないぞ。
僕はイレースさんを含めて、同時に四人の読心を始めた。
またしても頭痛が走ったが、何とか堪える。
「学院長、これ、今日届いた郵便物です」
「ありがとーイレースちゃん。丁度良かった、一緒にマカロン、」
「それと、先日魔導教育委員会から打診のあった、『魔導倫理法Ⅱ』の履修範囲見直しの件についてですが」
「無視!?マカロンは無視なの!?」
そんなふざけた会話も、僕の耳にはほとんど届いていなかった。
イレースさん、あなたは色んなことを考え過ぎだ。
彼女にとっては、その状態がデフォルトなのだろうが。
あなた、常に頭をフル回転させるタイプ?
「各魔導師養成学校の科目担当教師に、意見書を提出するよう、委員会から要請が来てますよ。うちはどうします?」
「あー、えー、それねー。うーん、どうしよっかなー」
「早く決めてください。私が代筆して良いなら、しますけど」
「あ、イレースちゃん書いてくれる?」
「えぇ。『魔導倫理法』の科目については、元々不満がありましたから」
「…??何で?」
などと、学院長が安易に聞くものだから。
イレースさんの頭の中で、とぐろを巻いていた不満が爆発した。
一気に、脳内に流れ込む情報の量が増えた。
「履修範囲が狭過ぎるんですよ。大体この学院からして、分身魔法だの読心魔法だの、法外みたいな魔法が横行しているのに」
済みません、それ今使ってるの僕です。
「それらの特殊な魔法の利用規定について、もっと厳密に定めるべきです。それなのにあの科目と来たら、大多数の魔導師が使う、在り来たりな魔法の使用に関する倫理を述べているだけで、そういう特殊な魔法についてはほぼ、全くと言って良いほど触れてないんですから」
「う、うん…」
色んな意味で頭が痛い。
ごめんね、読心魔法乱用して。
「これからは、そういった多種多様な魔法に対応し、特に、要注意魔法区分に分類される魔法の種類を見直すべきですね。大体あの区分は規定が曖昧過ぎるんですよ。もっと明確、かつ正確な根拠に基づいた枠決めをした上で、慎重な区分を…。って、聞いてますか学院長」
「うん、うん分かった。分かったよイレースちゃん。意見書については、イレースちゃんに任せるから…」
考えることを放棄したらしい学院長。
僕も、心を読むことを放棄したい。
イレースさん、あなたの情報量は多過ぎる。
頭パンクしそう。
「それよりマカロン…マカロン食べよ?マカロン食べたら、そんな難し~いことからも解放されて…」
「結構です。私はこれから、その難し~いことをたっぷりと意見書にしたため、委員会に提出しなければなりませんから」
そうですね。
あなたの頭の中、「意見書に何て書いてやろうか、いや、この際だから追加書類も添付して、徹底的に重箱の隅をつっついてやろう」と。
これから書き連ねるであろう文面を、既に頭の中で組み立てていらっしゃる。
その傍らでは、令月さんが、丁度難しそうな数学の問題に頭を悩ませている。
学院長と、羽久さんの思考が穏やかなので、まだ何とか耐えられた。
…頭が痛い。
「…?ナジュ、どうした?渋い顔して」
「え、あ」
またしても、羽久さんに声をかけられた。
そんなに、渋い顔になってた?
甘いマカロン食べてたはずなのにな。
「また舌でも噛んだか?」
「ナジュ君、マカロン嫌いだったっけ?」
「激辛マカロンでも混じってた?」
「何です。あなたも『魔導倫理法』について、何か物申したいことでも?」
ちょっと、皆一斉にバラバラなこと聞かないで。
頭の中が、マカロンと『魔導倫理法』で破裂しそう。
読心をやめようかと思って、しかし、やはり踏み留まった。
息を整え、頭の中を整理する。
大丈夫。大丈夫だ。ちゃんと制御出来る。
以前とは違うのだ。
「…奥歯に」
僕は、何とか言葉を捻り出した。
「奥歯?」
「奥歯の…絶妙な場所に…マカロンの欠片が挟まって…」
「…」
我ながら、酷い言い訳だと思ったが。
「それくらい、お茶で流し込め」
「大丈夫?つまようじ要る?」
「激辛じゃなかったんだね」
「なんだ…。意見がないなら、私が一人で書きますよ」
四人共、信じてくれたようだ。
そして。
「それじゃ、私は職員室で意見書を書いてくるので」
イレースさんは、用は済んだとばかりに、そのまま学院長室から出ていった。
途端に、頭の中が楽になった。
…はぁ。何とかなった。
イレースさんがいるときは、要注意だな。


